異世界に行きたいなんて誰も頼んでません!
水無瀬洙凜
第0話 憂鬱で楽しい日常
「あぁ...眠い...」
いつもの通学路を、
「まぁ徹夜で勉強したらそりゃそうなるでしょ。」
その隣を歩く
「だって...僕って勉強得意じゃないし、こうでもしないと点取れないんだもん。」
「えぇー?そんな事ないと思うんだけどなぁ。」
「氷麗瑠が言っても嫌味にしか聞こえないよ...」
「いやいや、あたしが得意なのは数学だけだよ?」
「それが嫌味なんだってばー!」
二人で言い合った後、互いにプッと吹き出し、笑い合う。
「でもさー、冗談抜きで柊香ってノー勉の割にテストの点良くない?」
「うーん、そうかなぁ。」
「そうだよー?うちなんて理科の植物とか、台風の動きとかの点高くても自慢できない様なテストでしか点取れないんだからなー?」
「へぇ...何か自信ついてきたかも。...って、ビックリした!全然気づかなかった。」
ちょっとボケた様な話し方をするこの人は、
「むっ。なんか今ディスられた様な気がするが。」
「あー...気のせい気のせい。」
「まぁ良いか。ところでテストと言え
「もうー!急に駆け出すのやめてくれないかな...あ、柊香ちゃん、氷麗瑠ちゃんやっほー?」
萌花を追いかけて来たこの人は、
「疲れた...全く萌花はもう...」
「えー?紬命ってば謙遜してー。持久走のタイム良いじゃん。」
「それとこれとは話が別なの。」
言い合う萌花と紬命を見て、柊香と氷麗瑠は笑い合う。柊香はふと、人は自分の事を客観的に見られない生き物なんだなぁと思った。
「もう学校着くよ?」
とにかくこのままだと埒が明かないので、柊香が切り出す。そう言われてようやく二人は言い合うのをやめた。実際学校は目と鼻の先だ。
「おーい。」
と、後ろから声がした。何だろうと思って振り向くと、そこには友達の
「ん。どうした?」
「えっと、普通に前を歩いているのが見えたから追いかけて来たんだよ。」
と、優弥が答える。
「デジャブ...」
柊香と氷麗瑠が同時に言う。今度は二人だけじゃなく、萌花と紬命も吹き出してしまった。
柊香は思った。勉強も運動も得意じゃなく、コミュ力も低いと思うから学校は楽しくないって思っていた。けど、こんな日常が続くのなら、学校も悪く無いなと。
「柊香?何ボーッとしてるの?」
氷麗瑠に声をかけられてハッとした。本音を心の奥にしまい込み、答えた。
「ううん。何でも無いよ。」
キーンコーン力一ンコーン、と、チャイムが鳴る。氷麗瑠は大きく伸びをして柊香と話していた。
「あー、やっと終わったよ。今日部活なくて良かったー。」
「え?どうして?確か氷麗瑠ってダンス部だよね?」
氷麗瑠はダンス部に所属している。なんでも、将来はアイドルになりたいらしく、他にも習い事でボイトレ等をやっているらしい。
「新しく入ってきた顧問が酷いんだよ。何か的外れなアドバイスばっかするし、それで違うって反論したらキレるし。本当最悪。前の顧問の先生の方が良かった。」
次々と愚痴をこぼす氷麗瑠の話に、柊香は苦笑しながら聞いていた。ふと、氷麗瑠の愚痴が止まる。と、
「そう言えば、柊香って演劇部だよね?演劇部って楽しい?」
まさか話を振られるとは思わなかったので、柊香は少し反応が遅れた。そして、口を開くと、
「うーん、そうだなぁ。...氷麗瑠には向かないんじゃない?」
え?という氷麗瑠の驚き。柊香は話を続ける。
「僕にとっては楽しいし、心の拠り所って言っても良いんだけど、あそこちょっとって言うか、かなり変な人が多いんだよね...中二病とか、サイコパスとか、オタクとか。」
「え、何その部活。」
氷麗瑠は興味がありそうな様子で聞いてくる。
「僕はもう慣れちゃったからあれだけど、耐性の無い人が行ったら疲れるだけだよ?発声で喉や腹筋も使うし、立ち稽古では三十分以上立たなきゃいけないし、柔軟や、体幹もするの。部長なんて、『文化部の皮を被った体育会系』って言ってるし。オタクの人達だって何かスイッチ的な物が入ったりすると、ついていけなくなっちゃうんだよね。僕ですらたまに疲れるのに、氷麗瑠が行ったら一日も保たないと思うよ?」
早口でまくし立てる柊香に、氷麗瑠は気圧された様子で「う、うん。」と頷いていた。
「ふぅ。まぁ、とにかくそれぐらいやばい部活って事だよ。あ、それより、もう帰らないと。最終下校過ぎちゃうよ?」
「あ、うん。そうだね。」
柊香と氷麗瑠は喋りつつも、少し早足で学校を後にした。
「じゃあね。」
「うん。また明日。」
氷麗瑠と柊香は別れて家路についた。
「はぅ...今日も疲れたなー。」
(学校は憂鬱で辛いけど、今日みたいに氷麗瑠達とずっと仲良くできれば楽しいなぁ...)
柊香は眠りにつきながら、こんな日常が続けば良いと思っていた。
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