第7話 禁書

 「柊香しゅうかちゃん?おーい、柊香ちゃーん?」

(う、うーん?...あ、れ?僕...さっきまで...?おかしいな、さっきまでの記憶が無い?)

 柊香はさっきまでの事を思い出そうと試みる。記憶を失う直前、柚禾ゆずかと一緒に学食を食べに行った事は覚えている。ただ、

(ただ、その後の記憶がなぁ...学食が元の世界の給食と違って美味しかった事と、柚禾とのお喋りが楽しかった事しか覚えてないや...って、そんな事は良いんだよ!

 ...僕、何やってるんだろう。そうじゃなくて、何か、忘れちゃいけない事のような...)

(((《保護》、それと《解浄》)))

(...!これは...忘れていた記憶?希少魔法、それと、神器...?何だろう...でも、これが全部の記憶じゃないんだろうなぁ...)

 全部の記憶を取り戻せた訳じゃないのにがっかりした一方で、柊香は大事なキーワードを思い出せてホッとした。

(とりあえず、この単語が手掛かりになるんだろうな。どこかで調べる事、できないかな?図書館とかがあれば)

「柊香ちゃん!!」

「!」

 突然、誰かに声を掛けられて柊香はびっくりした。否、その声の抑揚から察するに、突然では無いのだろう。しかし、先程の柚禾との会話についてずっと考えていた柊香は周りの事は目に入っていなかったのだが。

「もう!柊香ちゃんってば全然話聞かないんだから!どうしたの?」

 口調を強めつつも心配してくれる柚禾の声に、柊香は安心を覚えた。そして、ようやく顔を上げて柚禾の顔を見る。

「ねぇ、柚禾。」

「...何かあったの?」

「ううん。別に、大丈夫だよ。...あのさ、希少...」

 魔法、とは続けられなかった。さっきみたいに、途中で遮られた訳では無い。柊香はこのことを話して良いのかと迷った。

(もしさっきの柚禾との会話が事実だとして、話したら、また同じ事になるん

 じゃ...?そうなったら、今度は完全に記憶が飛ぶかも...事実じゃなかった場合も、頭おかしいって思われるだろうし...話さない方が良いかもな...)

「柊香ちゃん?またボーッとしてどうしたの?」

「...ううん。何でも無いよ。...ちょっとごめんね。図書室行って来る。」

 柊香は迷った末、黙っている事にした。そして、戸惑う柚禾を残して足早に図書室へ向かって行った。


 図書室に着いた柊香は、その広さに驚いていた。

「うわ...何ここ...図書室じゃなくて図書館じゃん...広すぎでしょ。取り敢えず、探してみるか。」


 十分後一一

「はぁ...全然見つからないんだけど...」

 諦めて戻ろうとしたその時、

「どうした?何か探してるの?」

「あ、優弥ゆうや。」

 振り向くと、そこには吉野よしの優弥がいた。柊香は、希少魔法については触れず、魔法について書かれた本は無いかと尋ねた。

「何かさ、魔法の種類が書かれた、図鑑?的な物は無いのかなぁって...」

「あぁ、それなら。」

 優弥は図書室の奥の方へ歩き出した。付いて来い、と言うことらしい。其処は、分厚い、貴重そうな本が並んだ他の本が並んである所とは一線を画す場所だった。こんな所にあるのか、と首を傾げる柊香だったが、

「此処にある本は全部、禁書でさ。」

「え!?」

 柊香は慌てて口を塞いだが、普通に考えればおかしいだろう。柊香の知る『禁書』とは、

 禁書:法律や命令によって特定の本の発行・輸入・閲覧・所持を禁止する行為。或いはその禁止された本。

 と言う認識なのだ。それなのに、何故一般の中学校がこんな大量の禁書を所持して、生徒に貸し出せるような状態になっているのか。驚いて目を見開らいていると、優弥は苦笑しながら補足してきた。

「僕も、最初に聞いた時は驚いたよ。でも、この学校はちょっと特殊でさ、国の許可を得た上で厳重に管理してあるんだってさ。此処にある禁書は全部、特殊な魔法が掛けられていて、無闇に持ち出そうとすると、本が発火して大火傷を負うらしいよ。」

 本が発火すると言う言葉を聞いて、怪訝な顔をした柊香に優弥は続ける。

「言っただろう?『特殊な』魔法が掛かっているって。本自体は無事だよ。それだけじゃないよ。全部の本にコードが登録されてるから、持ち出すとその国の機関に通知が来るんだって。その時の防犯カメラの映像とかから持ち出した人が特定されるんだ。」

(機関...?それって、さっき柚禾が言ってた魔法省と何か関係あるのかな...)

 柊香は話を聞きながら、思案し、そう言えば。と、ある事に気づいた。

「あれ?魔法の図鑑ってさ、禁書なの?普通に置いて無いの?」

「うーん、の魔法の図鑑なら、別に禁書じゃないんだけどね。柊香の探してる物って、もしかして希少魔法の図鑑なんじゃないの?」

 図星を突かれて、柊香はギョッとした。そして、そんな柊香の様子を見て、優弥も当たったと感じたらしい。

「只、借りる為には、先生のサインが必要なんだ。司書の先生のね。丁度、今居るんだけど。あ、先生。」

 優弥の視線の先には、こちらに向かって歩いて来る女の人がいた。

 










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