第8話 図書室の司書

吉野よしの君。最近は毎日来ますね。今日は何の本を探しているの?」

「あ、今日は僕じゃなくて、この人の。」

「貴方は確か...大榎木おおえのきさんじゃない。珍しいですね。何時もなら、文庫本のコーナーに居る筈だけれど。」

 あ、認知されてた。そう言えば、この人、元の世界でも図書室担当の先生だったなぁ。と、柊香しゅうかはそんな事を考えていた。

「先生と柊香って、知り合いだったんだね。」

「あら、言いませんでしたか?彼女、累計の借りた冊数で、歴代最多の記録を樹立しているのよ。」

(確かに本は好きだけど!僕ってこんな本借りてたんだ!?しかも文庫本の記録だけで?ってか、僕の場合、多分周回してるからこうなってるんだよ...)

 それは口には出さないでおくが。

「閑話休題として、大榎木さんは何の本を探しに来たのかしら?」

(黙っていてもしょうが無いよね...どうせ、優弥にはもうバレてるんだし...よし!)

 勇気を出して言ってみよう。ワンチャン、それがプラスになるかもしれないし。柊香は思い切って言う事にした。

「希少魔法が載っている本を借りたいですっ!」

「良いですよ。」

「あー、やっぱり禁書なんて、そう簡単に借りられないですよね...ってえぇ?」

 あれ、そこは僕が言う台詞じゃないの?と思わず柊香は首を傾げてしまった。優弥が言うのか...

「え、良いんですか?そんな...」

 禁書なのに、と柊香は言おうとしたが言葉が出なかった。

「......?あぁ、忘れていましたね一一」

(あ、やっぱ駄目かぁ。禁書だしね...普通は一一)

「一一サインを書く必要がありました。」

「「いやそっちかい!?」」

「こらこら2人とも。図書室では叫んではいけませんよ。」

 しまった。思わず声に出してしまった。って違う!

「禁書ってそんな簡単に借りれるものなんですか?」

「そうですよ。僕が頼んでも借りさせてくれないじゃないですか。」

(えっ、優弥ってどう見ても優等生タイプなのに、それでも駄目なんだ...じゃあ何で僕は良いんだろ...?)

 そんな柊香の表情を読んだのか、司書の先生が続ける。

「見たところ、大榎木さんは、自分の興味のある分野に対しては好奇心が旺盛で知識に貪欲だと思うからですね。で、吉野君に関しては...禁書の類を持たせると危険そうだからです。それに、大榎木さんは本好きでしょう?」

「まぁ、確かに...」

(そもそも本が好きじゃなかったら累計冊数でトップになんてなれていないか。)

「本好きに悪い人は居ませんよ。」

「僕も本は好きなんですけどね...」

「別に、吉野君を悪人と言っている訳では無いのですよ?只、吉野君は優しいので、知らない内に利用されたりする危険があるので駄目と言っているのです。その点、大榎木さんはそう言った事に関しては強いですから。それに、彼女、今まで本は丁寧に扱ってきていましたので、信頼できるんです。」

 その言葉を聞いて、柊香は疑問に思った。丁寧に扱う?それって普通の事の筈なのに。

「何も、『丁寧に扱う』とは物理的な意味ではありませんよ。何かを貸し借りしている以上一一所謂『又貸し』と呼ばれる行為ですが、私はこれを、信頼を大きく損なう行為だと考えています。借りているのは、あくまで『その人自身』であって、その人が更に他の人に貸す権利は無いからです。...吉野君。貴方は、自分で思っている以上に人が良過ぎる。貴方がそのつもりは無くても、知らず知らずの内に騙されてその本を利用されてしまう可能性がある。...私はそれが怖いのです。貴方が心配と言う理由だけでは無い。此処にある本は、なのです。禁書の中には、古の呪文が記された魔導書もあります。それがどう言う事か、分かりますか?」

 司書の先生の言葉に柊香と優弥は暫く言葉を失っていたが、優弥が我に返って言葉を返す。

「......悪用される、と言う事ですね。」

「そう。その中には、1人で国家を転覆させる事ができるような、強大な魔法もあります。流石にそのレベルの本にもなってくると、誰にも貸せませんが。禁書にもレベルがあるのですよ。今回、大榎木さんが借りようとしている、希少魔法に関しての本は、図鑑のような物ですので、大榎木さんになら、問題無く貸せますけど。」

 柊香は先生の言葉をゆっくりと噛み締めた。そして、改めて『禁書とは何か』と言うのを実感できた。只、1つ疑問があった。

「先生。それなら、どうしてこの本は禁書に指定されているんですか?」

「......それは、希少魔法は本来、世間一般には認知されていない魔法だからです。」


 


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