第9話 導々丘学園の裏の顔

(世間一般に認知されていない魔法?いや、『希少』って付くならそりゃそうなんだろうけど...)

 司書の先生の言った事を反芻しながら、柊香しゅうかは改めて、『希少魔法』と言う概念について考えてみる。確か、柚禾ゆずかは一一


「希少魔法を持っている人は、魔法省の、魔術統制課の、取り締まり対象になるの。」

「希少魔法っていうのは、文字通り、持っている人が少ないの。」


 と言っていた。ふと、柊香はある事に気が付いた。

(『魔術統制課の取り締まり対象になる』か...そう言えば、柚禾は他にも、『取り締まりされると国に取り込まれる』って言ってたっけ...ん??)

 何故わざわざ国が手を出すのか。『取り込まれる』と言うのは、まさか、

「国がその希少魔法を持つ者を独占したいと言う事...?」

 柊香の言葉を聞いて、先生がハッとしたような顔でこちらを見る。

(あ、ヤバい!声に出しちゃった...)

「......その通りです。希少魔法はその名の通り、持つ者が少ない上に、どの魔法も強力です。希少魔法を1つ持っているだけで、レベルに関わらず大魔導師ランクSに分類される程なのですから。」

(確か、柚禾の持っていた魔法が、空間魔法と時空魔法だった筈...何か時間が経つ毎に記憶が戻って来ている感じがするなぁ...)

「それだけ強力な魔法なのです。大っぴらに希少魔法の存在を明かしてしまえば、それを持っている人を狙う輩も現れるでしょう。なので、国は秘密裏にその魔法を所持している者をリストアップして、『保護』と言う名目で取り込んでいるのです。」

「......それって、一体、何をされるんですか?」

 口を開いたのは優弥だ。確かにそれは、気になるだろう。実際柊香もさっき、柚禾に尋ねていた。

「例として、まず自身の魔法についての理解を深める為の座学や訓練、更には研究や実験の対象にもなります。」

 それを聞いて、優弥は呆然とした。柊香も、柚禾に聞かされていなかった話が、想像を絶する内容で恐怖すら覚えてきた。そんな2人の様子を見て、先生が苦笑する。

「少々、話が逸れましたね。まぁ、そう言った理由で希少魔法は、一般には知られておらず、希少魔法について記されている本も禁書に指定されているのですよ。」

「でも、そんな魔法が載っている本が、どうしてこの学校に?」

 流石に気になる。いくら禁書扱いとは言え、普通は学校なんかに、国が欲しがる程の希少魔法について書かれた本なんて置かないだろう。

「......そうですね。この話をする前に、吉野君は戻って下さい。この話は少々危険なので。」

 優弥は少し怪訝そうな顔をしたが、先生にそう言われて戻っていった。

「......この学園は、国立の学校です。此処の学園は魔法について学ぶ所。学園長は魔法省の人間なんですよ。つまり、政府と学園は連携している...希少魔法についての研究等も、此処の学園で行われていると言う事なのです。此処の学園の裏の顔は...政府直属の魔法研究所です。」

(柚禾は希少魔法を持っていて、この学園に在籍している...魔法研究所...まさか、)

「今、希少魔法を持っていて、研究対象になっている生徒は居るんですか?!」

 急に頭に浮かんできた疑問を口に出す。もし、柚禾がその対象になっているのなら...考えたく無かったが、知りたいと言う気持ちもあった。

「それは...分かりません。」

「えぇ...」

「一般の教師には当然ですが、知らされておりません。私は司書と言う立場上、禁書の情報も把握しておかなければいけないので、ある程度は知っているのですが。それでも恐らく、ごく一部の情報でしょう。それに、仮に知っていたとしても、これ以上は教える事ができません。」

 柊香は少し、肩透かしを食らったような気分になったが、慌てて隠す。今聞いた事もしれっと重大な情報だ。

「......分かりました。そうだ、早く本を借りて戻らないと...」

「そうですね...はい、探していた本はこれでしょう?どうぞ。サインです。」

「あ、何時の間に...」

「そうそう、それは禁書ですから、できるだけ人目に付かない所で読んで下さいね。それか、ブックカバーを付けて読んで下さい。」

(こんな分厚い本に合うブックカバーなんてあるのかな?まぁ良いや。早く戻って調べないと...)

 司書の先生にお礼を言って戻る。取り敢えず、これは一旦隠して家で読もう...そう思った柊香だった。






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