第6話 希少魔法

 「ゆ、柚禾ゆずか...」

柊香しゅうかはやっとの思いで口を開き、柚禾を見上げた。柚禾は、茶色のワンピースを着ていて、スカート部分がふんわりとしている。肘まである手袋に、ベルトも付いていて、ベルトには杖と同じ、歯車の装飾があった。まるでファンタジー世界の登場人物みたいだ。

(って、呑気に服装観察している場合じゃないんだよなぁ...)

「柊香ちゃん...私のステータス、どこまで見たの?」

 「え?あっ...」

柚禾が杖を下ろし、口を開くと同時に、柊香の金縛りが解けた。

「早く話して。今は調子が良いけど、この空間は長くは保たないから。」

(空間?もしかして...さっき見たステータスに関係しているのかな?とりあえず、少しだけなら話そう。)

「えっと、僕は光魔法を持っていて、それでステータスを見れるの。ただ、表面的な事しか見れないから...」

 少ししか言わなかったが、これで伝わったらしい。柚禾は考え込む様な素振りを見せると、話しだした。

「そうだね。どうせこれは無かった事になる訳だし、少しなら話しても良いかもね。...私はね、私の魔法はね、希少魔法に分類されるの。両方ともね。そしてね、希少魔法を持っている人は、魔法省の、魔術統制課の、取り締まり対象になるの。」

「魔術...統制課?」

「知らないの?魔術統制課って言うのは...警察みたいなものよ。いや、警察より質が悪いかもね。...話を戻すけど、希少魔法っていうのは、文字通り、持っている人が少ないの。役に立つしね。後、神器を持っている人も取り締まりの対象になるの。」

「神器?」

「神器って言うのはね...魔法の属性を具現化したものなの。その形は色々あって、大体は武器の形をしているの。余程魔力が高くないと持てないんだよ。例えば、私の持ってるこの杖も神器の一種。」

 柚禾の話を聞いていて、柊香はふと思った。今の話を聞く限りだと、柚禾は希少魔法と神器の両方を保有している事になる。

(取り締まり...取り締まりかぁ...それでいくと、柚禾って...?そういえば、僕が見たステータスでは、〔武器〕って言うカテゴリがあったような?それって、神器とはまた違うのかな...?)

 そう考えた柊香は、思った事を口にしてみる事にした。

「ねぇ柚禾。取り締まりされるとどうなるの?」

「そうだなぁ...一言で言うと、国に取り込まれる。」

「取り込まれる?」

 取り込まれるとはどういう事なのだろう?国の為に働けとか?意味が分からなかった。柚禾は説明を続ける。

「取り込まれるって言うのは、柊香ちゃんが思ったように、国の為に働かせられるの。例えば、私の持ってる時空魔法だと、歴史を改ざんする為に過去に送り込まれるとか。」

「か、改ざん?それって...」

「そう。この国に、日本に都合の良いように歴史を改ざんしてるの。私達の持ってる日本史や、魔法史の教科書は大半が改ざんさせられたものなの。」

「そんなの...」

 柊香は言葉に詰まった。この世界は自分の世界とは別世界だが、それでも、自分の住んでいた世界がこんな事をしていると言うのはどうなの?と言う話だ。

「うん。そうだね。柊香ちゃんの言いたい事は分か...っ!」

 と、突然、深刻な表情に切り替わった。柊香が驚く間もなく、柚禾は切羽詰まった様子で柊香に呼びかける。

「柊香ちゃん!もう時間が無いからこれだけ言っていくね!今から時間を巻き戻す!それは今の会話が全部無かった事になるから、柊香ちゃんの記憶も無くなるの!だから、記憶を無くしたく無かったら...」

「え!?ちょっと待って!それって...」

 柚禾は魔法を使い始めているのだろうか。秒針の音が聞こえてきた。音は段々と速くなってきている。柊香は慌ててどうするかと考える。

(《保護》、それと《解浄》)

保護魔法で記憶の消去を止める。更に念の為治療魔法で記憶を復元できるようにする。両方とも光魔法のレベルが高いからできる技だ。柊香が魔法を使い終わった瞬間、秒針の音が止まり、時計の鐘の音が鳴り響いた。そして、

(あれ?なんか、目の前が真っ暗に...)

 柊香は、体が回るような感覚を覚え、そのまま闇の中に墜ちていった。




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