砂の地を、導くは願い。運命に手をひかれ旅立つ少女の、成長を描く冒険譚。

 砂漠地域を舞台に、過酷な運命に翻弄される少女と少年の成長と使命を描く物語です。
 主人公は帝国の皇女として産まれたアイシャ。幼少時の思わぬ冒険で泉に落ち、ナージファという女性に助けられ、彼女の養女となることによって、後宮住まいの立場を後にし、砂地の遊牧民族として育つことになります。

 序章、赤の章、白の章と、章の変わり目には年代が経過してゆく、まさに成長物語。臆病で慎重なアイシャにはその度ごとに大きな試練が降り掛かります。身体能力や意志力が秀でているわけでもなく、どちらかといえば翻弄されることの多い彼女ですが、その慎重さによって勇気を奮い起こし、より良い道を掴み取っていくところが好印象なのです。
 養女となった先で出会った従兄弟のファイサルも、ちょっと無鉄砲なところがあるものの憎めない少年です。過酷な運命によって頼るものを奪われた二人が、手を差し伸べてくれる人に頼りつつも、自分たちの使命を果たすため奮闘してゆく姿はいじらしく、応援したくなります。

 丁寧な筆致、しっとりした雰囲気ながらクスリと笑えるユーモアも仕込まれている、奥行きのあるファンタジー。物語も佳境に差し掛かり、じわじわと謎が明かされつつあります。ぜひご一読ください。

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