社会の贄としての僵尸

けだるく陰鬱な終末の風景が目に浮かんできた。読む進むと、著者が好んで書く「異常終末世界」の陰鬱だが、決して嫌いではない世界観に包まれる。「異常終末世界」をテーマにした作品を書き続けているだけあって、ぶれのない世界観に安心して浸ることができる。具体的な表現ではなく、総体としての文章や文節が、著者が描きたい世界を醸し出していて心地よい。
生と死、滅び行く世界などが淡々とした日常に溶け込み、主人公は本人の僵尸を引き連れて、その死の背景を追い求める。もちろん、その先に結論などあろうはずもない。それは主人公も最初からわかっているのだろう。探すことそのものが主人公にとってかけがえのない行為なのだ。そのことを裏付けるように、主人公は行く先々で過去の自分に遭遇する。僵尸は自ら過去を語ることはないが、そこに存在しているだけで周囲に過去を惹起させる。
重厚かつ濃密な雰囲気を持った作品なので、伊藤計劃さんを好きな人ならはまりそうな気がした。

もちろん、本作にも瑕疵はある。もっとも大きな瑕疵は、「続きが読みたくなる」ことである。これから読む方は、同じ思いに囚われることを覚悟しなければならない。