「巨大災害以降、現代とは死生観・生命観が変わってしまった世界」「かつて少女だった主人公達の再会、そして天才少女だった一人が欠けてしまった三人組」という骨子の類似性から、読み始める際にはやはり伊藤計劃『<harmony/>』の先入観がありましたが、読み進めるごとに相違点が浮き彫りになりました。
それはひとえに、ジャンルに掲げる「中華風SF」が醸し出す雰囲気や思想の違いからなるものだと思います。
内容とは若干ズレるかもしれませんが、不老不死を夢見る文化は数多かれど、始皇帝の不老不死探求に始まり仙人を志す道教など、中国の文化と不老不死は切っても切れない繋がりを持っています。
また不老不死は現代においても命題と言えるでしょう。たびたび倫理との衝突を繰り返しつつも、猫の腎臓病改善によって寿命が延びることが話題になるなど、良し悪しを抜きにしても注目を集めています。
「中華風SF」が内包する新旧生命観の広大なテーマ性を、かつての少女達と照応させる様は、マクロコスモスとミクロコスモスの概念にも似ています。鋭くも繊細な筆致で描き出される本作は、まさしく傑作と呼ぶに値します。かゆいところに届くルビのおかげで、中国語の名称に馴染みのない方にも触れやすく、是非読んでもらいたい珠玉の名作です。
蛇足ですが、本作を収録したアンソロジーはBOOTHにてpdf形態で無料頒布されているため、こちらもオススメです。
けだるく陰鬱な終末の風景が目に浮かんできた。読む進むと、著者が好んで書く「異常終末世界」の陰鬱だが、決して嫌いではない世界観に包まれる。「異常終末世界」をテーマにした作品を書き続けているだけあって、ぶれのない世界観に安心して浸ることができる。具体的な表現ではなく、総体としての文章や文節が、著者が描きたい世界を醸し出していて心地よい。
生と死、滅び行く世界などが淡々とした日常に溶け込み、主人公は本人の僵尸を引き連れて、その死の背景を追い求める。もちろん、その先に結論などあろうはずもない。それは主人公も最初からわかっているのだろう。探すことそのものが主人公にとってかけがえのない行為なのだ。そのことを裏付けるように、主人公は行く先々で過去の自分に遭遇する。僵尸は自ら過去を語ることはないが、そこに存在しているだけで周囲に過去を惹起させる。
重厚かつ濃密な雰囲気を持った作品なので、伊藤計劃さんを好きな人ならはまりそうな気がした。
もちろん、本作にも瑕疵はある。もっとも大きな瑕疵は、「続きが読みたくなる」ことである。これから読む方は、同じ思いに囚われることを覚悟しなければならない。