第6話

「アッハッハッ! 羽柴君弱いねー!」


「は、はは……島風さんが強いだけですよ……」


「えー? そうかなぁ? まぁ私、遊び慣れてるからね! あはは!」




 はぁ……はぁ……何とか耐えた……クソ! 不良時代にゲーセンに通い過ぎたせいで、無意識の内に闘争本能が働いて思わず島風をボッコボコにしそうになっちまう。


 元来、不良のたまり場と言えばゲーセンか河川敷と相場が決まっているもので、例に漏れず、俺達のグループもそうだった。


 毎日毎日学校にも行かずに通ったゲームセンター。


 掌にタコができるまでやりこんだ格ゲー、レースゲー、メダルゲー、エアーホッケー、太鼓の〇人。


 どれもこれもが思い出深いゲーム達で、あの頃の俺は、それらのゲームで仲間に勝つこと(争い事全般)に命を懸けていると言っても過言ではなかった。


 そんな青春の象徴であるゲーム達で、まさか接待プレイをする羽目になるだなんて、一体誰が想像しただろうか(泣)。


 レースゲームも、格ゲーも、エアホッケーも、全力でやれば島風をボコす事など朝飯前だと言うのに。


 でも……でも……それをしてしまったら、苦労して築き上げてきた無口で真面目なキャラクター設定が崩れてしまう……


 それは、それだけは何としてでも、誇りを捨ててでも、守り通さなければいけなかった。




「ふぅ~とりあえず一通りは遊び尽くしたし、他にやりたいのとかある? あ、プリクラとか撮っておく?」


「そ、それは勘弁してください……」


「あはは、そうだよね! プリクラは記念事とか特別な行事の時に撮りたいよね! よし! 今度にしよう! あ、私ちょっとお手洗いに行ってくるね?」




 ……いや、ちげーよ!


 お前とプリクラなんか取って誰かに見られたらお終いだから嫌がってんだよ! なんで撮るのはOKだと思ってんだよ!


 お、おのれ島風……ことごとくこの俺をコケにしてくれやがる……クソ、誰にもバレないように殺っちまうか? 


 いや、落ち着け俺……落ち着け……


 でも、このモヤモヤした気分を今すぐ発散しないと、どうにかなっちまいそうだ!


 何か……何かストレスを発散できるようなものはないか……あっ! 


 不意に目についたそれは、ストレス発散には絶好の代物だった。


 制服のポケットから小銭を取り出し、筐体に入れる。


 電子音の説明を聞き終えた俺は、リングの鐘を模した合図が鳴るのと共に拳を振りかぶり、有り余った力の全てをそれにぶつけた。


 バゴンッッッッッッ!


 という鈍い音がゲーセン全体に響く。


 それに遅れて、『オメデトウゴサイマス‼︎サイコウトクテンコウシンデス‼︎』という無機質な機械音が聞こえてきた。


 ふぅ……スッキリした……っていかんいかん! やりすぎた!! だ、誰かに見られてないよな? と心配になって周囲に視線を向ける。


 ……島風もいないみたいだし、大丈夫か? 




「えぇ!?!?」


「ひっ!」




 しかし、背後から聞こえた驚嘆の声に、俺は絶望する。


 振り返ると、そこにいたのは島風だった。


 口を押え、信じられないといった顔つきで筐体……もとい、パンチングマシーンを見つめている。




「こ、これ……羽柴君がやったの?」


「え、いや……ち、違うよ? 何か……壊れてたみたい……ハハハ……」




 咄嗟に出た苦し紛れの言い訳に、島風は眉をしかめている。


 マズイ……さすがにバレたか?


 最悪だ……不運バットラックダンスっちまった……


 しょうがねぇ……島風には気の毒だが、今すぐこいつをここで殺るしかねぇ!


 そう臨戦態勢に入っていると、島風が笑いながら言った。




「だ、だよね! 羽柴君がこんな記録残せるはずないよね!」


「そ、そうだよ! もう、島風さんったらー」




 二人の乾いた笑いが、ゲームセンターに響く。


 良かった……島風が俺の事をナメ腐ってくれていたおかげで事なきを得た……


 しかし、こいつといると心臓がいくつあっても足りねぇな……


 あぁ……早くこの時間終わってくんねぇかなぁ……(泣)。

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