第4話

「羽柴君、放課後とか休みの日とかは何して遊んでるの?」


「休日ですか? えっと……遊ば……ないですね? 勉強するか、本読んでます」


「えぇ!? マ、マジで言ってるの? 高校生なのに!? もったないし、健康に悪いよ!」


「け、健康に悪い……ですかね?」


「うん、やっぱり、人間の体って日に当たらないと狂っちゃうように設計されてるからね……一回自律神経が乱れちゃうと大変だよ? 夜眠れなくなったり、不意に動悸と変な汗が止まらなくなったり……嫌だ……もうあんな生活には戻りたくない……」


「し、島風さん? だ、大丈夫ですか? すごい汗かいてますけど……」


「え!? あ、ううん、だ、大丈夫大丈夫……ハハハ。と、とにかく! 子供は外で遊ぶ! これ鉄則! というわけで、今日はこの私が高校生の遊びの何たるかを手取り足取り羽柴君に教えてあげるから、大船……いや、戦艦大和に乗った気で楽しんでよ!」


「は、はぁ……」




 学校から駅へと向かう帰り道。


 何故か島風の暇つぶしに付き合う事になってしまった俺は、二人仲良く桜並木を歩き、質問攻めにあっていた。


 というか、このギャル結構変わり者だな……戦艦大和とか今時の女子校生が口にするかよ普通……何だコイツ、もしかして歴女か?


 そんな疑念を島風に抱きながら、決して自分の本性がバレないように、のらりくらりと島風の質問攻めを躱していた。


 入学当初から、何故か俺に付き纏ってくる『今をトキメクギャル女』。


 コイツの真意が分からない以上、下手な動きをするわけにはいかない。


 だから俺は、これまで島風に対して当たり障りのないような接し方をしてきた。


 しかし、放置すれば放置する程、島風の俺に対する積極的な態度には拍車がかっていくわけで。


 とうとう我慢の限界を迎えた俺は、今日、この放課後をもって島風の人間性を審査し、今後の身の振り方を定める事を決意した。


 仮に、コイツが俺を弱者と見做し、搾取の対象にしようと企てているのなら。


 俺は島風に対して、何かしらの自衛の策を講じる必要がある。


 クレバーでスマートなエリートへの道が懸かっている高校生活。


 なるべく勉強以外の懸念は取り除いておきたかった。


 だから、コイツが俺の邪魔をするというのなら、どんな手を使ってでも島風という人間を排除しようと、そう思った。


 小悪党をシバくのなんて、俺にとっては赤子の手をひねる事よりも簡単だった。


 しかし……仮に、万が一、島風が俺に対して純粋な好意や友好的な感情を抱いていた場合、話はややこしくなってくる。


 ハッキリ言って、そんな事はあり得ないどころかあんなに邪険にしていたのに好かれていたらそれはそれで島風がヤベー奴であることの証明になってしまうので是非とも距離を置きたいところだが、それをしてしまうと良心が痛むというか、夢見が悪い。


 だから、頼む島風! 俺の輝かしい未来のために、笑える程度の小悪党であってくれ!


 そんな訳の分からない願いを心の中で唱えながら、俺達二人は駅への道を歩んだ。


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