最終話

「きゃっ!」




 屋上に島風を連れ込み、昨日と同じように壁に押さえつける。


 すると、島風は困惑しながら俺に聞いた。




「は、羽柴君? 何するの? 痛いんだけど……」


「お前、約束はどうした?」


「約束?」


「そうだよ! 昨日言ったろ! 俺の正体がバレるような事があったら、お前も殺すって!」


「う、うん……知ってるよ。だから守ってるじゃん。昨日の事は誰にも言ってないし……」


「いや、そう言うことじゃ……」




 んんん? 確かに、島風の言っている事は正しい。


 島風は俺との約束を破ったわけではないのだ。


 ただ、俺があぁ言ったのは、島風が俺にビビって話しかけてこなくなる事を織り込み済みだったからで。


 相も変わらず俺に話しかけてくるなんて、俺の想定とは違っていた。




「お前……俺の事が怖くないのか?」


「え、怖いよ、もちろん。あんな野獣みたいな姿見せられたら、誰だってびっくりするよ」


「じゃあなんで話しかけて……」




 問い詰めると、島風は得意気な顔をしていった。




「いやね、昨日帰って考えたんだけど、たしかに羽柴君は怖い、でも、私を助けてくれたんだし、怖がるのは失礼かなって思ったんだよね。恩を仇で返すような真似はするなってお祖母ちゃんも言ってたし」


「は、はぁ?」


「それにね、私、ずっと強くなりたいって思ってて、昨日の羽柴君を見て、思ったんだ。この人と一緒にいれば、私も強い人間になれるんじゃないかって。だからね、羽柴君。私、君にお願いがあるの」




 そう言うと、島風は頭を下げ、おれの予想を遥かに凌ぐ、とんでもない言葉を口にした。





「私を、君の弟子にしてくれないかな!」


「…………はぁ?」




 あまりに吹っ飛んだその発想に、さしもの俺も動揺してしまう。


 しかし、島風は食い下がらずに、俺に詰め寄ってくる。




「お願い! 私、なんでもするから!」


「い、いや! 無理だ!」


「この通り! 隣の席のよしみでなんとか!」


「無理に決まってるだろ! そもそも、俺になんのメリットが……」


「メリットならあるよ! あのね、私、昨日見た通り、中学の頃は地味で根暗で真面目過ぎていじめられてたんだよね。だからさ、私なら、羽柴君を地味で真面目な生徒に育て上げられると思うんだよね!」


「なっ……」




 島風のその提案は、確かに今の俺にとって魅力的だった。


 俺の過去の仲間には、地味で真面目なヤツなんてまずいなかった。


 だからこそ、自分の擬態に今一つ自信を持てていなかったが、それを教えてくれる人間が側にいれば、より一層理想の高校生活に近づけるわけで……




「事情は分からないけど、強い自分を隠して地味で真面目になりたい羽柴君と、弱い自分を鍛えたい私……こんなにピッタリなコンビ関係ってないと思わない? 羽柴君、私と手を組もうよ。私、根暗さだけには自信があるんだ」


「いや……えっと……」




 島風に迫られ、俺は迷う。


 確かに島風の提案は魅力的だった。


 けど……けど……


 やっぱり、コイツの事は信用できない!




「やっぱり無理だ! 俺の事は放っておいてくれー!」


「あっ! 待ってよ羽柴君――――!!!!」




 屋上を飛び出し、追いかけてくる島風を巻こうと廊下を駆け抜けた。

 

 最悪だ……怖いものなんて、俺には存在しないと思っていたのに……

 

 まさか、こんなところに、俺の最大の天敵がいたなんて……


 あぁ、島風が存在する限り、俺の穏やかな高校生活は常に脅かされてしまうのだろうか。


 俺もとことん運が悪い。


 なんで、こんなヤツが隣の席に……




 あぁ……俺の高校生活、どうなっちゃうんだ……泣




 了

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今時ギャル風根暗女子とガリ勉陰キャ風ヤンキー男子の話【短編、3万字】 村木友静 @mura1420

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