大きな事件はないけれど、小さな出来事の積み重ねが少しずつ人を変えていく。この本当にありそうな感じがたまらない。登場人物たちの造形も素晴らしく、情報の溢れる現代の中で自分を客観視しつつも、それぞれがまっすぐに自身の感情に向き合っている姿が瑞々しく、好感が持てる。主人公、洋ちゃん、犬丸ちゃん、三人とも本当に素敵な若者たちだ。ラストの美しさも特筆もの。娯楽作品としては激しさがなく、文学と呼ぶには爽やかすぎるかもしれないが、そうした過剰さを排した純粋な物語がここにある。
反抗期を自覚しても親と争ったりしない、お互いに好意がわかってるのに「保留」してしまう。そんな、不思議な距離感の人間関係です。田舎の夏の牧歌的な雰囲気の中で、それぞれ問題は抱えているもののそれほど深刻ではなく、優しい人たちによって緩やかに解決されていく。そんな穏やかで静かな夏休み。この物語の少年少女は、いつか大人になった時にこの夏の思い出をどんなふうに思い出すのだろうか。そんなことを考えてしまいました。
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