温かな食卓と美味しい料理が、生きる希望と運命に立ち向かう勇気をくれた。

 元料理人の男は、お腹を空かせた謎の少年を放っておけず、家に招き入れ食事を振る舞う。度々食卓を共に囲むうち、言葉は通じないながらも二人は徐々に心を通わせあっていくのだが ───

 過酷な環境で育った少年のひらがな多めで綴られる心情に涙を誘われ、見知らぬ大人であるはずの男への信頼に胸が熱くなる。
 彼らは共に食卓を囲みながら、何を思うのか。そして、少年はどんな決断をするのか。
 こんなご時世、いや、ずっと昔から世界のどこかで子供たちが苦しんでいることを思うと、この結末を用意した作者様の平和への願いをより強く感じる。勇気と希望を胸に、新たな未来を作るべく立ち向かう少年の力強い後ろ姿が頼もしく見えた。おとぎ話を現実にできる日が、きっとくると信じたい。
 最後に。彼らの奇妙な友情を見守る不思議な存在が物語に奥行きをもたらしているように思う。争って生きるには、人の一生は短い。皆が笑顔で、お腹いっぱい食べて安心して眠れる日が来ますように。

その他のおすすめレビュー

霧野さんの他のおすすめレビュー870