美味しい料理は、作り手の愛情と少しばかりの妖術からできている☆

偉大なる歴代の王たちの志を継ぎ、念願の大陸統一を果たした天章王はこう言った。

「父君はもちろん、先のご先祖さまたちが築きあげてきた変革の数々は、どれも素晴らしいものだった。その中でも『虹えび天丼』は白眉と言えよう。兵の士気を上げるのは名声や褒賞ではない、食にあると、創成期に大きく領土を広げた天蓬王が口癖のように言っていたと伝わっている。文献によれば、それを発明し世に広めたのは皇后様とのことだが。いやはや、戦乱の世において仲睦まじかったお二人には畏敬の念しかない。妖術を使える者は既に絶えてしまったが、味付けの妙術だけは今も脈々と受け継がれておる。今後もそれは大切にしていきたいものよ」

天章王から遡ること数百年。幾つもの激うまメニューを発明し、天蓬王の舌を唸らせ胃袋を掴んだ皇后。その彼女がまだ「水蓮」と名乗り、片田舎の荒屋で妖術師の見習いをしながら真実の愛を探し求めた頃の物語だ。

天蓬王の苦難を共に過ごし、自らの意志に従って料理の腕を磨き続けた彼女が望んだものは、美味しいものを食べて笑顔になる皆の表情だった。エピソードごとに登場するそれぞれのメニューに手抜きは無く、ファンタジー色も十分に出しながらも「実際にありそうで、食べてみたい」と読み手に思わせる筆使いにお腹が空いてくるだろう☆

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