訳あって森の奥でひっそりと暮らす妖術士見習い、水蓮。
ある日彼女は、雪の中で行き倒れていたイノシシの獣人「天蓬」に出会う。
野生的なルックスと裏腹に、彼は優雅な仕草で振る舞われたお茶漬けを食す。態度や言葉遣いの端々に高貴なオーラを漂わせる彼は、お美味しいお茶漬け(おかわり有り)とお茶を堪能して去ってしまう。
久々に誰かと楽しく食事した後では、ひとりぼっちの淋しさが身に染みる。人のために料理する楽しさを思い出した水蓮だったが───あの俺様な獣人は一体、何者? 来訪の目的は?
なんやかんやあって、森を飛び出し彼らと旅立つことになった水蓮。 道中、愉快なお仲間が増えたり天蓬さんに変態疑惑(?!)が持ち上がったりと、それはもう賑やかで楽しいこと。
旅の中、刻々と変化していく水蓮の気持ちが細やかに綴られ、思わず応援したくなっちゃいます。頑張れ、水蓮ちゃん!
水蓮が振る舞う料理の数々はどれも心を込めて丁寧に作られており、身も心も温まりそう。異なる文化で育ったらしい天蓬も、すっかり水蓮の料理の虜に。食の記憶って、強く残るものですね……
彼女の決断と彼らの行く末を、どうぞ見守ってあげてください。あまーい!!
偉大なる歴代の王たちの志を継ぎ、念願の大陸統一を果たした天章王はこう言った。
「父君はもちろん、先のご先祖さまたちが築きあげてきた変革の数々は、どれも素晴らしいものだった。その中でも『虹えび天丼』は白眉と言えよう。兵の士気を上げるのは名声や褒賞ではない、食にあると、創成期に大きく領土を広げた天蓬王が口癖のように言っていたと伝わっている。文献によれば、それを発明し世に広めたのは皇后様とのことだが。いやはや、戦乱の世において仲睦まじかったお二人には畏敬の念しかない。妖術を使える者は既に絶えてしまったが、味付けの妙術だけは今も脈々と受け継がれておる。今後もそれは大切にしていきたいものよ」
天章王から遡ること数百年。幾つもの激うまメニューを発明し、天蓬王の舌を唸らせ胃袋を掴んだ皇后。その彼女がまだ「水蓮」と名乗り、片田舎の荒屋で妖術師の見習いをしながら真実の愛を探し求めた頃の物語だ。
天蓬王の苦難を共に過ごし、自らの意志に従って料理の腕を磨き続けた彼女が望んだものは、美味しいものを食べて笑顔になる皆の表情だった。エピソードごとに登場するそれぞれのメニューに手抜きは無く、ファンタジー色も十分に出しながらも「実際にありそうで、食べてみたい」と読み手に思わせる筆使いにお腹が空いてくるだろう☆