妖術士見習いは愛を学びたい
一帆
第一膳『出会いとお茶漬け』(お題)
ほんと、私、どうかしているわ。
見ず知らずの相手に話しかけた挙句、家にまで連れてきてしまうなんて……。
ただでさえ、目立つわけにはいかないというのに、まったく何をやってんのかしら。
私は狭い台所で今さらながら、ちょっと頭を抱えてしまった。
―― まあ、しょうがない。
雪がちらつくようなこんな寒い日に、行き倒れている人を見なかったことになんかできない。そのままにしておいたら、凍死してしまいそうだったし……。
少なくともそういう真似は、私にはできない。だって、七年前、私も彼と同じようにボロボロになって同じ場所で行き倒れていたんだから……。
行き倒れていた私に味のほとんどしない肉スープを作ってくれたお師匠様のことを思い出して、ちょっぴりしんみりとする。
突然、私のセンチメンタルな気持ちを壊すかのように、グゥグゥグゥ グゥ――っとびっくりするような豪快な音が彼から聞こえてきた。
本人は恥ずかしそうにうつむいたままだけど、何の音かすぐにわかった。
―― となれば、もう作るしかないわ!
これでも前世はプロの料理人だったのよ。いろんなことがあって森の奥でひっそりと暮らしているけど、美味しいものを食べさせたいという気持ちだけは、今も熾火のように残っている。
―― まぁ急なことなので食材も限られているし、すぐ出来るものという条件付きだし。
「アレルギーとかない? 苦手なものとかある?」
「?」
彼が首をかしげる。あ、そうだ。アレルギーって言葉は前世のもの。この世界では使われない言葉だった。ごまかすように、あわてて言い直す。
「あ、……、そうね、食べたら湿疹が出る食べ物とかある?」
返事はないけど、少し首を横に振ったのは分かった。食べ物という言葉に反応するかのように、彼のおなかは正直で、さらに音を大きく立てた。
―― よっぽどおなかがすいているね。
私は、散らかっている台所をもう一度見る。
―― でも、お米足りないしなぁ……。
お
―― 明日食べようと思っていたんだけどな、一人分がいいところかな。
お米はこの世界では貴重品だ。ふもとのお屋敷に行って、何度も頭を下げて交換してもらわなけゃ手に入らない。それに、いまさら炊くのも大変だしなぁ……。
それにきっと彼は温かいものが食べたいだろうな。いくら毛がいっぱいあるといっても、雪の中にいたしなぁ……。
―― だったら、これで!!
「じゃあ、お茶漬けを作るから、少し待ってもらえる?」
彼は黙って、首を縦に振った。
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