第三話 想う
家に帰り、夕食を作って食べて、食器を洗う。
お母さんはお父さんよりも早く帰ってくるけれど、先に食べてお風呂に入れと言われてる。なので、さっさとお風呂に入り、部屋に戻って宿題をした。
スマホがピコリンと音を立てる。
今日は会えて嬉しかったという文を読み、じわじわと喜びがあふれ出した。ニヤニヤしてしまう自分が恥ずかしいけど、笑いがとまらない。
笑顔のまま、私もですと送ってみる。
すぐに返信が来て、しばらくやりとりを続けた。
借りた小説の内容は、中学生の孤独な少女――
ドキドキしたり、キュンキュンしたり、切ない気持ちになったりしたけれど、読んでよかったと思える作品だった。
火曜日の夜には読み終えたので、蓮君にメッセージで感想を伝えた。すると蓮君が喜んでくれたので、気持ちがほんわかした。
明日会うか聞かれたので、お礼に、マカロンが作りたいという気持ちを書いて送信すると、喜んでくれたので嬉しかった。
日曜日にマカロンを作って、東屋で渡す約束をした。
マカロンを作ると伝えたのは、前に、蓮君がマカロンが好きだと話していたのを覚えていたからだ。
あと、マカロン好きなお母さんのために、何度か作ったことがあるからだった。
蓮君から、毎日メッセージが届いた。
マカロンを作って、蓮君に渡すのが楽しみだった。
時々ふと、本を返したあとのことを考えて、寂しさを抱いたけれど、孤独には慣れている。
だから大丈夫だと、自分に言い聞かせて、楽しいことを考えた。
♢
日曜日。
曇り空の下。紺色の傘と、白いトートバッグを持ち、緊張しながら公園の東屋に向かう。
「あっ、来た!」
東屋に近づくと、嬉しそうな表情の蓮君が手を振ってくれた。彼の私服姿にドキドキする。
「マカロンが楽しみで早く来たんだ! あっ、私服だぁ! 私服姿も可愛いねっ!」
「えっ? あっ、ありがとう。あのマカロン、おいしくできてるといいんだけど……」
ちゃんと味見をしたし、家にいたお母さんにも食べてもらったから、大丈夫なはずだけど、とても不安だ。
私はトートバッグから、空色の箱を取り出して、蓮君に差し出した。
「はい、どうぞ」
「ありがとうっ!」
花が咲くような笑顔でお礼を言われて、急に、逃げ出したくなる。恥ずかしいけど我慢だ。
箱を開けた蓮君は「うわー! 可愛いっ! ピンクだっ!」とはしゃいだあと、マカロンをおいしそうに食べてくれた。
そのあと私は本を返し、二人で公園内を散歩する。
「なんか、デートみたいだね」
蓮君が優しくほほ笑み、「付き合いたいな」と言葉を続ける。
「えっ?」
「再会する前からね、
「ん?」
「再会して、やっぱり好きだなぁって。月乃ちゃんと一緒にいると、なんか空気が変わるんだよね。癒されるというか、もっと一緒にいたいなーって思うんだ」
「……そう?」
「うん、そうだよ。俺の、彼女になってくれる?」
「私でいいの?」
「もちろんっ!」
嬉しいけど、不安だ。だけど。
「よろしくお願いします」
ペコリとおじぎをすると、蓮君がクスリと笑う。
「こちらこそよろしくね。ねえ、手、つないでもいい?」
小首をかしげる蓮君。
私はコクリとうなずいた。
了
梅雨の公園の東屋で 桜庭ミオ @sakuranoiro
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