・アンケート

 言葉の本音は見えないが、文字に起こすと本音がルビに出てしまう。

 そんな世界のお話。


   ***


あのー、一万円のこのチラシをギフトカードを見て予約したもらいに来た小塚居こづかい保志ほしですでーす


 そう言って小塚居が差し出したチラシには、こう書いてあった。



 ここはとあるハウスメーカーの営業店舗である。

 黒のスカートスーツを着た長い黒髪の女性が、頭を深々と下げて小塚居を出迎えてくれた。


小塚居様ですね。小塚居さんね。営業担当の営業の星野ほしの留美るみと申します。でーす。よろしく小塚居保志お願……いいたしますお小遣い欲しそう!


あ、はい。あー……、よろしくお願いしますお小遣い欲しぃいいいいっ!!


 小塚居は営業担当の星野に案内されてテーブル席に座った。


本日はこちらのどうせこの人もチラシを一万円にご覧になって釣られただけいらしたなんだということで、ろうけど、本日はすぐ近く仕事だからの分譲真剣に住宅を住宅をご見学探していただき、いるテイで弊社が小塚居様対応しなきゃに紹介でいけないきる物件のよねぇ。や提供できる面倒だからサポートをギフトカード説明させてだけもらっていただきます帰ってほしい


 営業担当の星野が笑顔で説明しているが、小塚居は視線をほとんどチラシに落としていた。


あ、はい。このチラシそれに作ったして人はもこのセンスチラシ、ねーな。気合が傍点を入ってます全部に打ってね。いるでも、から、強調強調の傍点はすべき点の初めて一万円とかとかアンケートギフトカードとかのとかの大事な所大事な所だけに打ったが目立たないほうがでしょ。いい危うくんじゃない見逃すところですか?だったよ


あ、うわぁ、それは違うめんどくさいんですよ。タイプの人だ。それをなんで作った人のお小遣いが本音が欲しいどうしてだけの人もルビ(たぶん)にに出て駄目出ししまうので、されなきゃなの。ルビのさっさとフォントサイズギフトカードををすごく受け取って小さくしておとなしく点に見える帰ってくれようにしませんかただねぇんです」


 意外な返答に、小塚居の視線も自然と正面に向いた。


あ、なんてそうなん書いてあるかですね。気になるなぁ。ルビみたい人に見せられにぶっちゃないってことはけますね、煩悩がダダ漏れあなただったのか?


よく言われます。今回はぶっちゃけてねーよ!おかげで、 むしろ本音をあだ名知ってはルビー早く帰ってなんですほしいわ!


ルビなんでだと単に漢字伸ばすんだよ(笑)を読み普通に間違えたルビでいいみただろ。いになるから、キラキラネームかよ。ルビ星野ーってルビーって伸ば……してるあ……んですそういうかねアレ?


…………何言ってんのこの人


 なんだか変な空気になって、二人は早々に分譲住宅の見学に移ったのだった。


   ***


 分譲住宅の見学が終わり、店舗に戻って説明もひと通り終わった。


それでは、長かった~。アンケートに体裁をつくろって記入を住宅をお願い買おうかいたします。悩んでいるフリとか記入いただきマジでいらないから。ましたら、おかげで無駄に一万円分の説明させられてギフトカード時間を取られたし、を差し上げます喉もカラッカラだよ!


あ、どうもついに来た!!


 小塚居はアンケート用紙とペンを受け取って、質問に対する回答を記入した。



 ポスト投函のチラシちらし寿司食べたくなった(笑) 


 1回目かぞえきれん 


 分譲住宅の紹介一万円のギフトカード! 



 このが綺麗なアンケートころけっこうが良めんどかったくさいな 



 もう独身少しだから価格が家なんか抑え買うられわけていないたらのに検討一万円の余もくれて地もあるご苦労様(笑) 


 良い経験それにしてもができ拘束時間充実長かったしたなぁ。時間を時給換算過ごするとすこ五千円か。がで物件にきました興味ないから分譲見学も住宅説明もを買たいくつでう際は苦痛だった。別の社を会社で選択肢の三千円のやつ一つとあったけど、してそっちは念頭になんとか置いて一時間でおくよう切り上げよう。にします。よし、書けたぞ。ありこれでがと一万円うございました。ゲットォオオオオオッ!! 



 アンケートを書き終えた小塚居は、恐縮しながら営業担当の星野に用紙を差し出した。

 ルビで本音がダダ漏れになっているが、回答は手書きだからルビを小さくして点にすることはできない。


 しかし、意外にも気まずい雰囲気にはならなかった。

 営業担当の星野は回答欄に目を通しても笑顔を崩さなかった。


アンケートやっぱりね!!のご記入、 やっぱりこの人ありがとう一万円が欲しいございました。だけだった! はい、はいっ、こちら一万円分答え合わせ~! のギフト名は体を表すカードって、表しですすぎでしょ


あ、はい。本音が見られてあの……恥ずかしい……。なんか、こればっかりはすみません何度目でも恥ずかしい


 小塚居は最速でギフトカードに手を伸ばしつつ、申し訳程度に頭を下げた。


ああ、恥ずかしいえ、そうねぇ!大丈夫ですよ。 実はこの瞬間がみなさん、最近の楽しみだいたいなのよねぇ。こんな私だけが感じで一方的にすし客のダダマーケティング漏れ本心を読んで、の参考には客が恥ずかしそうになりますからする様子を眺めるの


 小塚居は手早く帰り支度をすると、そそくさと店を出た。

 営業担当の星野は、退店する小塚居を最後まで笑顔で送り出していた。


   ***


 実はチラシを作成したのは星野留美だった。彼女は元々は広報担当だったが、つい先日、営業担当に異動となったのだった。

 ちなみにアンケートのフォーマットは他人が作ったものである。


 星野留美はチラシの作成当時、自分が何を考えていたかを思い出すために保存データのフォントサイズを大きくしてみた。


分譲住宅会社の経費見学会だからに初めて痛くもかゆくも参加のないけど、方でアンケート一万円はあげすぎ!にお答 あいつらえいたは結婚してだい十分にた方に、幸せなんだから、一万円のさらに一万円もギフトやらなくてカードいいでしょ!をプレゼント! 私に一万円くれよ!)』


 星野留美はそっとフォントサイズを戻した。

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本音がルビに出る世界 日和崎よしな @ReiwaNoBonpu

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