・結婚披露宴
言葉の本音は見えないが、文字に起こすと本音がルビに出てしまう。
そんな世界のお話。
***
温かい照明で
等間隔に並ぶ円形テーブルを囲む
男性は黒いスーツに白いネクタイを結び、女性は思いおもいにドレスとジュエリーで着飾っている。
部屋の中央
エンパイアラインの純白でクラシカルなドレスをまとう新婦の名は、
その隣で黒い蝶ネクタイを締めて背筋を伸ばしている新郎の名は、
二人はそれぞれ、自分の招待客を歓迎していた。
馬場早織の元へ、黒髪ポニーテールの女性がやってきた。
ピンクのスカートスーツを着て真珠のネックレスを首から
二人は互いの両手を合わせると、小さくピョンピョンと跳ねて喜びを分かち合った。
「
「
新婦の早織に
後ろの女性の表情は固く、その女性からプレッシャーを感じたため、佳奈は新婦の早織と少し言葉を交わすと、早々に自分の席へと戻っていった。
佳奈の後ろにいた女性がすかさずズイッと新婦の前に出てきた。
ボディラインがはっきり出るマーメイドラインのドレスが、金色のシルクの光沢を辺りにまき散らしている。手首にはブランドもののバッグを引っ掛けていて、高そうな指輪を複数はめている。
「
「
誰よりも派手な出で立ちの
一方、新郎の
まるで営業の取引相手みたいに握手を求めて右手を差し出す。
「
「
ここで、女性の
会場の
「
スクリーンではサウンドエフェクトとともにピンク色のハートが泡のように下から上へと積み上がっていき、そしてキラキラした文字が画面中央に浮かび上がる。
《
優しい背景音楽が流れはじめた。
ピンク色のハートがシャボン玉のように弾け、画面が切り替わる。
ピンクの泡の下から浮かび上がったのは、新郎の
それが数秒おきに切り替わっていく。
水族館デートで腕を組んだシーン、遊園地デートで乗り物に乗っているシーン、家でバースデーケーキを囲んでいるシーン、そして、両家の両親が顔合わせをした日の集合写真。
今度は赤いハートの泡が浮かび上がり、
すると、新郎の保の笑顔がドアップになった写真が現れ、そこに新婦の早織からのメッセージが赤色の文字で浮かび上がる。
会場がザワつく。
新郎の保は
しかしスクリーンの映像は止まらない。
相変わらず優しい音楽が流れ続け、今度は青いハートが浮かび上がって
すると、新婦の早織の笑顔が映し出され、そこに新郎の保からのメッセージが青色の文字で浮かび上がる。
会場のザワつきがいっそう大きくなる。
スクリーンの映像はまだ続いている。
再びピンクのハートが下から浮かび上がって弾ける。
二人が顔を寄せ合って笑顔で映っている写真が映り、ピンクの文字が浮かび上がる。
もはや誰もスクリーンは見ていなかった。
新郎と新婦の様子を見て、悲鳴をあげる女性すらいた。
新婦の
その顔は鬼の
その様子を佳奈が身を乗り出して眺めている。
彼女の
優樹乃の表情は真剣そのもので、スマートフォンを新郎と新婦に向け、血走った目でその様子を動画撮影している。
新郎側の黒いスーツの男たちはテーブルに
会場の主役席では、新婦の早織がナイフを握りしめたまま新郎の保ににじり寄る。
「
「
新郎の保が後ずさりしながら、チラとテーブル上の料理に視線を落とした。
その瞬間、新婦、新郎の二人はいっせいに動いた。
新婦の早織がナイフを突き出しながら新郎の保に飛びかかる。
新郎の保は汁気の多い料理の皿をすくって、それを新婦の早織に向かって投げつけた。
皿は新婦の早織の顔面に直撃した。
彼女はナイフを落として目についた茶色いソースを一生懸命に
その隙に新郎の保は全速力で逃げ出した。
通り道にいる人を誰かれ構わず突き飛ばし、会場の扉を
その後、新婦の早織も新郎の保も警察に逮捕された。
新婦の早織は殺人未遂、新郎の保は傷害と詐欺。
新郎の保が外の警備員に不審がられて捕まえられたため、この
ちなみに、《新郎・新婦、奇跡の軌跡》を編集したブライダル・スタッフも減給処分を受けたという。
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