新世界の掌編小説

ショートショートと聞けば、思い出すのは星新一だろうか、阿刀田高だろうか。R.A.ラファティやレイ・ブラッドベリを想起する人もいるだろう。
彼らに匹敵する才能がいまここに、あなたの目の前に現れたと聞いたらどう思う?
確認するのは簡単だ。遠藤世作の本作を読むだけでいい。相手は掌編小説だ、ものの五分とかからない。

ショートショートは懐の深いジャンルだ。SFもあればホラーもあり、ミステリもあれば純文学もあり。本作に目を転じてみよう。西暦5000年の支配のあり方、奇妙な穴の逸話、三名の自白、長いときを経て届いた手紙……。奇妙な味の作品も多い。マリモによる圧政、ストーキングの成就、QRコードの侵蝕、博愛主義の末路。ここに挙げたモチーフが少しでも気になった方は、それがどのように調理されたのかをご賞味いただきたい。
この作品は、タイトルで伏線を張り、描写で惹きつけ、ラストで転がす。ある意味で模範的なショートショートだが、どこか新しい世界を予感させるところがある。この体験を経た後に日常に復帰すると、日常そのものが少し変貌して見えるような。
新世界の掌編小説が、あなたを異境へと誘っている。

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