単なるおねショタ×無双モノではない、重厚な古代ローマ風歴史絵巻

幼くして歴史ある大国を支配する『黄金王』ことタルキウス。王の器と最強魔導師としての力を兼ね備え、老獪な貴族達を相手にしても一歩も引かない。しかし聖女『リウィア』の前では年相応の無邪気さや弱音を見せ、その二面性が実に魅力的でキャラの立った主人公だと思いました。

古代ローマや帝政ローマ期をモチーフにしたであろう世界で、作中に登場する様々な文化や政治体制などから、シッカリと設定を練った上で構想されたのだなと感じました。
加えて魔術を使ったスピード感あるバトル、宝具や神器を用いた戦闘はド派手で迫力があり、時代考証だけでなく戦闘に関する描写や文章も実に巧みだと思います。
それでいて、元老院や神殿と王政側との微妙な関係も描かれ、チート能力を持った少年王が敵をブッ飛ばすだけの単調な無双モノじゃなかったのも良かったです。歴史モノとしても楽しめる、重厚な内容でした。
とはいえ『重い作品』というわけではなく、リウィアとのやり取りは微笑ましく健全で、おねショタ要素のおかげで「分厚い文献を読ませられている」という印象もなかったです。重さと軽さ、硬軟が絶妙なバランスで組み立てられている作品だと思います。

ただ、架空の歴史モノとするのであれば、実在の国名や地名を用いるのは無用な混乱を招くとも感じました。モチーフにするのは良いですが、『ローマ』や『ガリア』や『カルタゴ』といった実際の国名や固有名詞を出すのではなく、オリジナルのネーミングを用意するべきだと思います。
そして、より多くの読者をもし獲得したいのであれば、『歴史モノ』というジャンル自体が人を選ぶので、リウィアとのおねショタ要素をもっと前面に押し出し、休息シーンも多めにすると、大衆ウケしたのかなと思います。

とはいえ、三章では『王様が最下層まで落ちぶれる』という、ある意味で王道な展開となり今後のストーリーにも注目です。
題材の時点でオリジナリティがあり文章力も高水準なので、『ローマもの』が好きな人には自信を持ってオススメできます。

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