祖父と登山に出かけた青年が目にしたものは……。

 医療用ナノロボットが普及し日本人の平均寿命が八十八歳になった近未来。主人公は祖父の米寿の祝いに合わせて、以前から祖父が登りたがっていた霊峰への登山のお供をすることに。老人であるにもかかわらず祖父は軽々と山を登っていくのだが……。

 現実の社会問題を思いもよらぬ手法で解決するというのはSF小説でよく見られる手法だが、本作でも高齢化社会に対する一つの解答を見せてくれる。

 この作品の見どころは何といっても中盤のある場面! 祖父と孫の暖かな交流から、いきなり切れ味の鋭い展開が飛び出して読者の意表をついて来る。そしてラストで感傷的な気持ちになっている主人公とは裏腹に作中の描写は非常にドライなものとなっており、この落差が大変印象に残る。

 2000文字に満たない短編なので一気読み間違いなしの作品なのだが、読み終わった後に冒頭を見直すとちゃんと伏線を張ってあるのも非常に上手く、タイトルに秘められた意味にもつい唸らされてしまう。


(「山を登る人々」4選/文=柿崎憲)

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