尾八原ジュージ先生のホラー作品は、書籍化された『みんなこわい話が大すき』もお読みしましたが、そこに登場する「よみご」という霊能力者が今作にも登場します。
しかし、霊能力者が絶対の力で、悪を罰するように幽霊退治をする、というものでもありません。
やはり、人間の常識を超えた人智不可の超自然的な力には勝てないのです。
事故物件に潜む“ナニカ”に引き寄せられて、だんだんと正気を失っていく人たち。
その様子が、ささやかな日常の中で、不意に見せられる狂気として描かれていて、じつに怖かったです。
今まで、マトモと思っていた人が、ある日突然、手のひらを返したように敵になってしまう……
超常的な現象だけでなく、生きている人間が一番ヤヴァい…… そしてやっぱり事故物件もヤヴァい!
そんな剥き出しの怖さと緊張感を保ちつつ、最後まで一気に拝読できました。
天才というよりかは天才性も込みで何度も前線で活躍してきた凄腕の熟練兵といった方向性の凄さなのですが、とにかく凄い。全体的に凄い。ジュージさんに惜しみない拍手を。
小説って90%の出来とか100%のクオリティとか言うと凄いように聞こえると思うんですが、この『巣』に関してはそれ以上、120%の素晴らしさでした。ただ単に上手いとかそういう話ではなく、読者の情緒に刺し込めるものや何度も襲い掛かってくる上質の恐怖とか驚異的なまでの読みやすさとか、完璧では留まらない作品としての武器がこの小説には沢山あるんです。こういうのを書けるのが羨ましいという感想より先に「凄い……」というのが出たので、読み終わってからしばらくはポケーっとしてました。
あと、変な前印象が付くのは宜しくないと思うのであまり多くは語りませんが、鬼頭さんというキャラクターがめちゃくちゃ魅力的でした。
他に印象的だったのが、応援コメントで「幕間が唐突」って仰ってる方がいらっしゃって、はじめ私は「そう見える人もいるのかー」くらいのぼんやりした気持ちでいたのですが、読み終わる頃には「幕間めっちゃ良かった」「もう幕間が最高だった」という感想に傾きました。幕間が後半になるにつれてめっちゃくちゃ効いてくるんです。ネタバレになるので細かいところは申し上げませんが、小説の最終的な構造を見定める計算力、もしくは後々から方向を整える上手さが常人とは段違いに秀でていらっしゃると思いました。
あとほとんど全てのエピソードに見せ場と次回への引きがあるのが強いです。「これからどうなっちゃうんだろう?」と予想しながら読んでいったのですが、とても楽しかったです。
取り敢えず読んでください。一旦ペースに入ったらスラスラ読めるようになると思います。めちゃくちゃ怖かったし、めちゃくちゃ面白かったし、めちゃくちゃ切ない小説でした。
内容そのものは独立ですが、言うなれば「みんこわ」こと『みんなこわい話が大すき』に続く、「よみごシロシリーズ第二弾」みたいな位置づけにあるのだろうと思われる作品。なんですけど、よみごのシロと呼ばれる霊能者が本筋に関わることになるのはかなり後半になってからで、そこまでがね、本当に、なんというか、昔のジャパニーズホラー映画の手触りで、マジで怖いんです。ガチで背筋が何度も凍った。ジャパニーズホラーってのはハリウッドのホラーと違って、情念とか情感とかそういったものの描写に力点が置かれるところに独特な味わいがあるらしいんだけど、そのまさしく「初めて触れる作品であるにもかかわらず、まるで見たことがあるような気がするというような根源的恐怖」に通ずる作品です。夜中に一人で読んでいたらトイレに行きたくなくなった。こわい。