第10話 調査依頼 ※宮廷魔術師長ダルセル視点

「この娘を、調べればいいんだな?」

「そうだ。ダルセル殿に、詳しく調べて欲しい」


 目の前で眠っている少女を眺めながら、マルシャル大臣と話す。私達と娘だけで、この部屋には他に誰も居なくて、とても静かだった。


 少し前まで、うるさかった。今は眠っている少女が、先ほどまで起きていたから。




 この娘の名前はユウコというらしい。先日、ヘルベルト王子がコルネリア嬢に婚約破棄を告げて騒動になった、アレに関わっている人物だそうだ。


 初対面であるはずの私に対してベタつくような馴れ馴れしさで接近してきて、私が名乗る前に勝手に人の名を呼ぶような、とても失礼な令嬢だった。


 最初は私も我慢して、距離を置いて会話しようと思っていた。しかし彼女は空気を読まず、礼儀知らずに接近してこようとした。


「ダルセル様! 私、貴方と仲良くなりたいですッ! 魔術が得意なのでしょう? 私にも教えて下さい!」

「……なぜ私が、全く関係のない貴女に魔術を教えるのですか? あり得ませんよ」

「お願いです! 私もダルセル様のように、魔術を使いこなせるようになりたいの。 だから、私に教えて。いいでしょ?」

「……」

「ねぇ、お願い! ねぇったら」


 私は、横に立っているマルシャル大臣に視線を向ける。このうるさくて面倒な娘を連れてきた張本人に、お前が対処しろと。彼は嫌そうな顔を浮かべてから、ようやく動き出す。


「ユウコ嬢。今回やって来たのは、そんな話をするためじゃありません。ですので」

「マルシャル様も、魔術を教えてもらえるよう一緒にお願いして。ねぇ、お願い!」

「ですから」


 何をやっているんだ、アイツは。使えない。黙らせることが出来ないようなので、私は強硬手段を取る。魔術で眠らせたのだ。


「これで静かになった」

「あ、あぁ……。そうだな」


 床に倒れた娘を、寝台に運ぶ。これで、ようやく落ち着いて話せるな。


 ヘルベルト王子の新たな婚約相手だから、対応に苦慮するのも多少は理解できる。だけど、もう少しちゃんと取り扱って欲しい。私に面倒事を押し付けないでくれ。


 事前に話は聞いていた。だが、こんなにも面倒な娘だとは思わなかった。さっさと依頼を終わらせて、すぐに突き返そう。





「今回は、禁術を用いても良いんだな?」

「あぁ。ハースト伯爵家の当主と、陛下の許可も得ている」

「わかった」


 これから行う魔術の調査について、マルシャル大臣に確認をする。王国では禁術に指定されていている魔術。対象者の記憶を読み取る効果のある、その魔術を使用してもいいのかどうか。


 悪用すると非常に危ないので、禁じられている。


 その魔術を使いこなれる者は、数少ない。そして俺は、知識探究心を満たすために習得した。この禁じられた魔術を使用することが許可される、宮廷魔術師長の立場を手に入れた。


 だから今回、マルシャル大臣が依頼してきた。この娘が持っている情報を強制的に引き出すため。


 事前に、ハースト伯爵家の当主と陛下の許可も得ているらしい。本来なら、本人の意志も確認しておく必要がある。だけど、起こして確認するのは面倒だ。今回は緊急事態として処理しよう。親の許可は得ているから、このまま作業を始めてしまおう。

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