第11話 少女の記憶 ※宮廷魔術師長ダルセル視点
「これは……!」
魔術を使用して、ユウコという少女の記憶を覗き見て驚く。彼女は、前世の記憶を持っていた。しかも、異世界で暮らしていたようだ。
前世の記憶を持つ者、異世界で暮らしている者、そういう話を聞いたことがある。かなり珍しい事例らしいが、あり得ること。だけど、二つの事象が重なっている例は過去に聞いたこともない。それだけで、非常に珍しい。
さらに調査を進めていく。関係ない部分はなるべく飛ばして、関係ありそうな話を調べていく。そして見つけたのが、乙女ゲームという単語。
そこに、俺の名前が出てきた。なぜ彼女の前世で、異世界の記憶の中に俺の名前が出てきたのか。これは関係ありそうだと、じっくり見ていく。
俺の他にヘルベルト王子、マルシャル大臣、王国騎士団長のノルベール、公爵家の令嬢コルネリアの名前も出てきた。他にも色々、王国に関する情報が物語の中で出てくる。
乙女ゲームというものは、女性を主人公とした物語を絵と合わせて楽しめる娯楽、だということを理解した。
彼女が遊んでいた乙女ゲームで、俺達は物語に登場する人物として描かれている。それで、一方的に知られていた。物語の中で、好き勝手に恋愛模様を創作されていたらしい。
しかし、その物語は創作だ。未来の予言などではない。俺は、ユウコという令嬢と恋愛する気など、一切無いから。物語に出てきた内容には一部、現実とは違う部分もあった。だから、この世界を観測して書かれたものじゃない。
魔術師の俺が、女性に向かっていきなり魔術を放つなんてあり得ない。そんな事は物語の中で起きる出来事だけ。
けれど、気になることがある。物語の敵役として登場した公爵家の令嬢コルネリアという女性に、興味を惹かれる。この感情は何だろう。原因不明だった。この感情に身を任せると危ないかもしれないと直感して、とりあえず考えないようにする。
今考えるべきは、ユウコという少女の記憶。
そのまま伝えるのは、少し面倒だな。こちらで勝手に処置して、マルシャル大臣に突き返せばいいか。
ということで、彼女から抜き出した記憶を別の場所に移してから、記憶を封印しておく。これで関連する記憶も、処置が完了した。これで彼女は前世の記憶を、忘れたものとして気にしなくなる。気にならないようになる。
そうしておいた方が、彼女にとって幸せになれるだろう。ヘルベルト王子も婚約を破棄した直後に、再び婚約相手が居なくなるという事態も起きない。
そのまま二人とも、何も知らないまま暮らしていけばよいだろう。
マルシャル大臣に伝える調査結果も、何の問題も無いと報告した。他国の諜報員という可能性は皆無。彼女が王国の情報を外に漏らした様子は一切確認できなかった。
彼女の前世の記憶、乙女ゲームの存在は全て隠したまま、調査を依頼してきた大臣に報告した。
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