第12話 地方での静かな生活のはずが

 王都から遠く離れた場所に移住してきた私は、中央とは関係を断ち切った暮らしを始めた。それなりに発展している街で、生活も不便はない。用意してもらった屋敷は広く、使用人達も勤勉。何の不満もない。


 王都での暮らしと比べると、少し暇を持て余すこともある。だけど、自由な時間が増えたので、ゆったりと過ごすことが出来ていた。




 そんな時に、彼らが訪ねてきた。


 まずマルシャル大臣が、とある領地を視察するために地方を訪れて、そのついでに私が暮らしている屋敷を訪問した。


 会いたくなかったが、ちゃんと手順を踏んで面会を申し込まれたので、理由もなく追い返すことは失礼になる。あの光景について彼に話すわけにもいかず、会うことになった。


「婚約の申し込みは断る、という話は聞いています。だが私は、貴女と結婚したいと思った。最初は王子の件があり、都合が良いので婚約を申し込もうと思った。だが、あの日あの時、君に出会って本気で恋をしたんだ」

「で、ですが……」


 なんで私は、この人に好かれているのか。意味が分からないから、ただただ怖い。バッサリと断りたいが、相手は大臣という、王国で重要な役職者。粗相がないようにしないといけない。面倒だけど。


「ごめんなさい。私は貴方のことに、そんな感情は抱けないです」


 言葉を選んで、諦めてもらうように伝える。だけど。


「もちろん、わかっている。急にこんな事を言われて、コルネリア嬢が戸惑っているのも理解している。だけど君には今、婚約相手は居ない。だから、私にもチャンスがあるはずだ」

「いえ、ですから……」


 何度も断るが、聞き入れてくれない。どうしても結婚したいと、強引に詰め寄ってくる。とても厄介だけど、追い出すことも出来ない。


 襲いかかってきたら、今すぐ屋敷の警備兵を呼んで追い出すのに。


 それから婚約話とは関係ない、他愛もない話をして彼は帰っていった。また来る、と言い残して。




 また別の日には、騎士団長のノルベール様も屋敷を訪れた。


 害獣が出現したので、討伐するため騎士団が地方に派遣されたらしい。その帰りに寄り道したらしい。


「俺は君に、本気で婚約を申し込む。この前は、大臣のついでに名乗り出た。だけど君に失礼だったと気付いた。今は、ついで、なんて気持ちは一切無い。本気で君と、結婚したいと思っているんだ。だから改めて、君に婚約を申し込む」

「申し訳ありませんが、私は……」

「これは俺の、嘘偽りがない本気の気持ちだ。コルネリア嬢に知っておいて欲しい」

「……」


 こうして彼も、定期的に屋敷を訪れるようになった。


 自覚のない好意を向けられて、私は困惑する。なぜ彼らは、私などに好意を向けるのか。その好意が向かうべき先は、ユウコという令嬢じゃないのかしら。


 私は彼らにとって、敵意を向けられる存在じゃないのか。


 婚約破棄された時に見たあの光景は、未来で必ず起きる出来事じゃない。可能性の話だと私は考えていた。


 私は王都を離れて、ユウコをイジメてないし、暗殺者を仕向けるなんて馬鹿なこともしていない。既に、私の見た光景と大きく違っていた。


 だが、これから起きる未来の出来事の可能性もある。ユウコは、ヘルベルト王子と婚約をした。私が見た光景の中に、その場面があった。未来の可能性の一つだ。


 だけど、私がマルシャル様やノルベール様に迫られている場面なんて、一度も見ていない。これは、どういうことなのか。


 この先も彼らが関わろうとしてくるのなら、もっと別の方法で関係を断ち切る必要がある。まだ良い方法は思いつかないが、どうにかしないと。




「お嬢様、来客です」


 そんな事で悩んでいると、新たに屋敷を訪れる者が居ると執事が伝えに来た。また来たのか、と思いながら対応する。


「どなたがいらっしゃったの?」

「宮廷魔術師長のダルセル様です」


 来客者は、宮廷魔術師長のダルセル様だという。なぜ彼が、私に会いに来たのか。理由は分からない。


 来客の応対をした執事に聞いた話によると、私に話したいことがあるらしい。嫌だけれど、会って話をするしかないのよね。


 こうして私は、ダルセル様とお会いすることになった。

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