第8話 心変わり

 マルシャル様は、ヘルベルト王子に事情聴取の結果を詳しく教えてくれた。


 なぜ急に、リムピンゼル公爵家の令嬢であるコルネリアとの婚約を破棄したのか。


「私は、真実の愛に気付いた。コルネリアではなくて、ユウコと結婚することこそが一番大事だと思ったから」


 事前に誰にも相談しなかったのは、なぜ。


「反対されると思ったから。だけど、この気持を抑えきれなかった。私は自分で判断して、どうするのか決めた」


 どうして、コルネリア嬢の誕生日を祝う夜会で告げたのか。多くの貴族が見ている目前で告げた理由は。


「なるべく早く、コルネリアに伝えたほうが良いと思ったから。ユウコも望んでいたので、あの場所で婚約破棄を告げた。他の貴族達の前で告げたのも、この事実を皆に知っておいてほしかったから」




 話し終えたマルシャル様は、眉間にシワを寄せて渋い顔だった。一緒に話を聞いていたお父様とノルベール様も、理解不能という表情。


「とにかく、ヘルベルト王子とコルネリア嬢の婚約破棄は確定しました。貴族達にも知れ渡って、撤回することが出来ないような状況なので。申し訳ありません」

「いえ、大丈夫です。私は、婚約破棄を受け入れましたから」


 マルシャル様から、婚約破棄を撤回することが出来ないような状況だということを教えてもらい、あらためて謝られた。むしろ私としては、それで問題はない。


 他の女にあっさりと心変わりするような人だと分かって、既に愛情も冷めていた。それよりも、ここから逃げたい。彼らと関わり合いたくない。


「それから、もう一つお話したいことが」

「何でしょうか?」


 まだ、話したいことがあるというマルシャル様。お父様が、疑問の表情を浮かべて聞く。


「私は、コルネリア嬢に婚約を申し込もうと考えています」

「え?」


 突然、マルシャル様がそんな事を言った。なぜ。


「婚約相手の居なくなったコルネリア嬢を、このまま放置することなど出来ません。王妃となるために今まで教育されきた貴女を、無駄にするわけにはいきませんので。相手は、それなりに高い地位の人物と結婚することが望ましい。私は大臣を任されているので地位は十分、現在婚約している相手も居ないので都合が良いかと」

「なるほど」


 マルシャル様の提案を聞いて、とても乗り気なお父様。リムピンゼル公爵家としては、大臣との繋がりが出来るので好都合なのだろう。


「こちらの都合で申し訳ないが、婚約を受け入れるかどうか考えて欲しい」

「で、でも……」

「マルシャル殿との婚約が嫌だというのであれば、俺も名乗り出よう。彼と同じく、俺もそれなりの地位で婚約相手も居ないから。どちらか好きな相手を選んでくれ」

「ええっ!?」


 突然、2人の男性から婚約を申し込まれた。なんで、こんな事に。しかも相手が、あの光景に登場したマルシャル様とノルベール様だなんて。


 そもそも、なぜ彼らに都合よく婚約相手が居ないのか。


 私は、どう答えるべきなのか。

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