推せ推せ推せ!推しがグイグイ押してくるんだから!

アイドルファンであった女子高生『絵里』が不慮の事故で溺死してしまい、聖女『エリシア』として異世界に転生し、新たな推しである王太子『レイシェルト』と出逢う、推し活ラブストーリーでした。
前世の頃から不遇であり、そして転生した後も黒い髪や瞳のせいで『邪悪の娘』と周囲に蔑まれる過酷な境遇でありつつも、エシリア本人の前向きさや優しさ、推しの一挙手一投足にハイテンション限界オタクになる性格のおかげで、悲壮感などはあまりなく最後まで楽しめました。

特にエリシア視点で語られる文体は、テンションの高さやコメディ要素によって読みやすく盛り上げているだけでなく、レイシェルトの外見的・内面的魅力や、お城や花園といった風景の美しさも巧みに描写されており、非常に文章力が高いと思いました。
書くべき描写、書かなくて良い描写の情報の取捨選択、地の分と会話のバランスやテンポなど、執筆者が参考にできる部分が多々あります。
それでいて得意げに「どう?文章が上手いでしょ?」とは感じさせず、読者はストーリーのみに没頭して楽しめるのが、『上手い』どころではない『達人』の領域とすら感じました。

ただ『推し活』がテーマである割には、占い師として稼いでレイシェルトの肖像画を発注したり、王妃と一緒に推し語りする以外には、あまり具体的な推し活っぽい行動がなかったのだけが惜しいかなと。
ファンタジー世界なので、グッズを集めたりライブに熱狂するのは難しいでしょうが、その辺りで色々な『異世界における推し活』のアイディアが見たかった気持ちもあります。

とはいえ全体を通してみれば、王子と出逢い、三角関係などもありつつ、最後は自分の力で周囲に認められて推しと結ばれるという、完成度の高い王道のシンデレラ恋愛ストーリーで、非常に良かったです。
女性向け作品はあまり読まない、むしろ初めて読むレベルだったのですが、上質なラブストーリーとして楽しめました。最初に読んだ『聖女転生モノ』がこの作品で良かったと、心から思います。

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