強き王の若き日のエピソード。しかしそれは、あまりにも壮大で


 フレーヴァング国の若き王子ヴィトセルクには、城を抜け出す悪い癖があった。そこで知り合った従者のアスート、美貌のハーフエルフのレヴァル。
 三人の関係は、主従関係ともいえるし、仲間ともいえるのだが、彼らのあいだにあるものは、友情という爽やかなものではないし、愛情というような美しいものでもない。この、強い男たちを繋げる一種独特の絆が、なんとも格好いい。

 物語は、ある事件を追ってヴィトセルクが仲間を伴い、無謀にも辺境に赴くところから始まる。そこに待ち構えていたのは、ヴィトセルクの強さも権力も恐れぬ美貌の男、ガランドード。
 このガランドードには、退廃的ではあるが、超越的な力が感じられる。
 イラつくヴィトセルクだが、やがて彼の愛するハーフエルフのレヴァルが消えてしまう。そして、明らかになる辺境の、何百年にも渡る禁忌の秘密。

 物語世界全体の、アンティークで暗い雰囲気。退廃の世界の中で、赤々と燃える松明のように輝くヴィトセルクの若さ、無謀さ。
 神のように恐ろしく、悪魔のように魅力的な敵。
 キャラクターたちの魅力と、設定の面白さに、ページを繰る手が止まりませんでした。

 そして、最後に描かれる敵側、ガランドードの物語。

 まるで、あまたの異世界が浮かぶ宇宙に、ひときわ輝く薔薇のごとき星雲を見たような読後感でした。

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