妖しさに引き込まれる怪作

魚好きの友人が見せてくれたとある水槽。それはどこにでもいる金魚の群れにしか見えなかったが、友人は珍しい魚なんだと語り、その数日後に姿を消してしまう。
例の金魚を引き取った主人公だが、はたして彼の見たものとは。

めっちゃ好きです!!!!

まずシンプルすぎるタイトル。たった2文字のひらがなに、こんなに不穏な気持ちを掻き立てられることがあるでしょうか。

主人公の語りによる作品ですが、「右腕がちゃんとあったころの話」という出だしに心がざわつき、ついつい身を乗り出して聞きたくなります。
また、その語り口は気だるげながら、水槽と魚たちという光景はどこか怪しく、不思議と息を潜めて読んでしまいました。脳裏には見事な赤いドレスをひらつかせる金魚たちがチラつき、コポコポというポンプの静かな音が聞こえる様です……。

そして、物語の後半。
ネタバレはしたくないので多くは語れませんが、その奇怪な光景に艶やかさを感じる自分自身にぞくりと来ました。それはまさしく主人公が感じたものと同じものだったでしょう。すると、その結末は……。

幻想小説、怪奇小説が好きな方なら、絶対にお気に召すと思います。
ぜひご一読ください。