幼少フレンド。

 部屋を出た直後


「わ!」


 小さな悲鳴とともに、どん、と体に衝撃が走った。


 押されて尻もちをつく。


「ご、ごめんねぇ!」


牡丹色の目を大きく見開いた、白銀色の髪の子供が慌てて駆け寄る。拍子に、さらさらで指通りがよさそうな髪がふわっと広がった。


「だいじょうぶ? いたいところない?」


 ぺたぺたと柔らかく小さな手で僕を触っているのは、幼馴染のモルスだ。

 モルスの家は穀物を育てたり、村の近くにある森の木を切ったりして、それを売って生計を立てている。


 そして、モルスは力が強いので、ぺたぺたと触られているものの、肌がぐいぐいと引っ張られて痛い。


「あっ、ごめん」


村には、モルス以外に同じくらいの年の子はいなくて、僕達はよく一緒にいる。少し前までは一緒にお風呂にも入っていたけれど、「男の子と女の子なんだから」と、最近は一緒には入っていなかった。


 何をしに来たのだろうか。モルスを見ると


「えへへ。森できれいなものみつけちゃったから、あげる!」


頬を少し染めて服のポケットに手を入れ、取り出したものを、ぐい、と目の前に差し出す。

 手の中にあったものは……石、みたいだ。


「魔石だよ。みつけたんだ!」


 魔石は魔力のこもった石で、中に含まれている魔力の純度が高く、その上高価なもののはず。

 ……それも、外で見つけたなんて。


「おんなじのが二つあったから。これ、ステラとおそろい!」


そう、可憐に笑うものだから受け取ってしまった。


 手に持った魔石をじっと見つめる。モルスの目みたいな色で、なんだかきらきらと光を放っていて綺麗だ。そして、モルスの手にある魔石の色がをしていることに気付き、頬がすこし熱くなった。


「またね!」


 今日は、ただこの石を渡しに来ただけらしい。

 さっさと遠のいていく背中を、少し寂しく思いながらも手を振って見送る。


×


 モルスの目の色は、桃色だ。それと同等の色をした魔石を見つめる。


 この世界では、目の色が魔力の色となる。正しく言うと、。だから、ステラの目の色は魔力と同じ萌黄色黄味の強い緑色

 これは、この世界では常識らしい。かくいう僕も自然と受け入れていたので、魔力の色が虹彩に現れるのだと認識するまでに少し時間がかかった。


 それで、その魔力の色には、実は良し悪しがある。

 簡潔に言えば『赤い色の目は好まれない』。


 なぜなら、


 この世界には魔獣がいる。魔力を持った獣だ。

 魔獣は黒い見た目に赤い目をしていて、非常に狂暴で人間を襲う存在らしい。なぜ伝聞調なのかと言えば、直接見たことがないから。


 アウルムこの国では、滅多に魔獣は現れない。それは、王国軍がきちんと節度を持って討伐しているからだという。

 節度を守って討伐すれば、妙に増えることもなく安全に暮らすことができる。


 それはともかく、僕はモルスの目の色が好きだ。

 たとえ、周囲がそう思っていなくとも。


 だけれど、だからこそ不安だった。

 もし、モルスがこの村から出ていったときに、誰かからか目の色で悪く言われないか。意地悪をされないか。


 あの子は、僕と一緒に『魔術アカデミー』に行きたいんだって言っていた。

 ちょっぴり、うっかり屋なところもあるから心配なんだけど。


 なんとなく手に馴染むようなモルスの目色の魔石を握って、しみじみと思った。


 『やっぱり、モルスの事が好きなんだなぁ』


と。

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