遠出ショッピング。
程なくして、僕は初等部へ入学する年になった。
……本来なら、モルスと一緒に入学する筈だったのに。
そう思っても、過ぎた事は仕方がない。寂しいのを堪えて、入学準備を始める。
「まず、手袋を買いに行くわよ」
そう言い、アナスタシアは僕の手首を掴んで外に連れ出した。
最近気付いた事だけど、手を繋ぐ時は手首を掴む方が
「手袋?」
どうしてだろうと首を傾げると
「危険だからよ」
そう、アナスタシアは答えた。
一体、何が危険なのか。それは分からなかったけれど、この世界で生きていく中で、いずれ知ることになるのだろう。
とにかく、
「どこで買うの?」
「ピスキスの街。ベアトリクス……魚をくれる人の所よ」
つまり、アナスタシアの友人に僕の手袋を見繕ってもらうらしい。
ピスキスといえば、魚の刺身を食べる場所……だったっけ。
「お魚のお礼、言ってもいい?」
そしてあわよくば刺身が食べたい。醤油とかあるかな。
「好きにしたら。きっと喜ぶだろうから、会えたら言ってあげて」
アナスタシアはそう冷たく言うけど、楽しみにしているのか少し嬉しそうだった。
一体、どんな人なんだろう。
×
遠距離の移動には、魔術式を使うようだった。
昔は汽車や車があったらしいけど、巨大樹木が生えて魔獣が凶暴化してから、魔術式での移動が一般的になったらしい。魔獣が汽車や自動車を襲いまくって運航が困難になったのだとか。
この魔術式は魔女やフェレス家の悪魔とか、色々な人が研究に携わって出来たものだという。
×
「あ。おーい」
ピスキスの街に着くと、僕達を見て近付く人影があった。
「ナーシャ、久しぶり! 元気にしてた?」
満面の笑みで出迎えたのは
「……鱗?」
皮膚に少し、魚のような薄い鱗が生えた人だった。
「お、亜人を見るのは初めてかー? アタシは『鱗人』の亜人なんだ。ま、王都っていうか
亜麻色の短い髪の女性は、深い瑠璃色の目を細めて快活に笑う。
「……あの木が生えてからそうなっただけで、アンタはアンタじゃないの」
アナスタシアは声を低くして、少し不機嫌そうに呟いた。
「んー、ま、ナーシャはそうかもだけど。周囲はそう思ってないみたいだよ?」
アタシは気にしてないけど、と呟きつつベアトリクスは周囲を見回す。
「で、何の用?」
「この子が初等部に入るから色々を買い揃えなきゃなのよ」
「へーぇ、この子が例の」
「……こんにちは」
なるべく丁寧に、お辞儀をした。
「こんにちは。ちゃんと挨拶できて偉いねー」
するとベアトリクスはしゃがんで目線を合わせてくれ、にこにこと笑う。
「でもさ、それならナーシャの実家とかそこいらの方が良いモン揃ってるでしょ?」
そのままアナスタシアを見上げ、問い掛けた。
「折角だから、会わせてみようと思ったのよ」
「ふーん。……ま、それなりに良い品揃えてあげようじゃないの」
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