革新バリュース。


「ま、なんといってもまずは手袋からだね」


 ベアトリクスは僕を見下ろしてそう言った。


「そうね。まあ、手袋はクニクルス製のものが良いかしら」


「手袋? 何で?」


 アナスタシアも当然のように頷き、提案をする。


 そういえば、よく見ると大人達はみんな着けている。僕の両親も着けていた……ような。


「ん、まあ初等部に入れば習うんだけど」


 ベアトリクスは首を傾げる僕と、目線を合わせるようにしゃがんだ。


「まず、魔力は手から出るのはわかる?」


「なんとなく」


僕の答えに満足そうに頷き


「手には魔力を出すところがあるんだ。それは外部からの色々に弱いから、守るために手袋を着けるの」


そう、教えてくれた。


「まあ、例外もあるけど。それは本当に例外中の例外だから、気にしなくていい」


 ——それから。


 手袋を着けるようになった結果、杖を使うようになったこと、手のひらを人に見せない方が良いことなどを教えてもらった。


×


 そして、僕は自分の手にぴったりな大きさの黒い手袋と、子供用の杖、基本の魔術が載っている子供向けの魔導書を買った。


 買い物の最中で、ベアトリクスみたいに魚みたいな人をちょっと見かけたけれど、あんまり居ないみたいだ。

 それを彼女に聞くと、


「まあ、色々事情があるからね」


と、曖昧に笑っただけだった。アナスタシアは少し目を逸らして小さくため息を吐いていたから、聞いちゃいけなかったのかもしれない。


 買い物が終わって、ちょっと魚料理を食べて、そのあとベアトリクスとは別れた。


 久しぶりの刺身は美味しいかった。醤油みたいなタレとワサビみたいな薬味もあって、「へぇ、フェレスみたいな食べ方すんだね」と言われたけれど。



「……なんか、変な感じ」


 あんまり手袋を着けたことなんてないから、慣れるかな。


「誰だって、最初はそういうのよね」


手を開いたり閉じたりしている僕に、アナスタシアは小さく笑った。


 初等部のうちは手袋に慣れずに外しちゃう子もいっぱいいるらしい。とにかく、初等部を卒業するまでにはなるべく慣れてほしいのだと彼女は言った。


 今回買った手袋は、初めて手袋を付ける子供向けで、肌触りが良くて締め付けが弱く、付けてる感じが薄い伸縮自在な素材のものだ。

 高学年用、大人用とか細かい作業がしやすいもの、丈夫なものとか、色々あるみたいだ。


「手袋を着けないのは、服を着ないのと同じようなことなの。人によっては『けしからん』ってすごく怒るから、付けているにこした事はないのよ」


 なるほど。手袋を着けない事は、下着姿でうろつくような感じらしい。

 なるべく、早く慣れようと思う。


 それと、手袋には手から漏れる微細な魔力を吸いとってくれたり、魔力で他のものを汚さないようにする役割もあるのだという。


 ……なんだか、本当に下着みたい。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

これって転生してスローライフを送る流れじゃないんですか⁉ -世界を変えた巨大樹木を切り倒して世界を『球体』に戻します- 4^2/月乃宮 夜 @4-2-16

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ