覚醒シックルーム。


「こ、ここは……?」


 起き上がって周囲を見回す。

 病院だろうか。なんだか、白くて綺麗な建物だった。


「ここは、軍部の施設です」


穏やかな声がした。

 見ると、キャスター付きの椅子に座った白衣の男性が笑いかける。


「よく目を覚ましました。かなりの重傷だったので、流石に無理かと思いましたが……」


「えっと、あなたが助けてくれたんですか」


安心した様子の男性に問うと


「おや。貴族の子に見えませんが、その年で丁寧な言葉遣いが出来るんですね」


そう、少し目を見開いた。


「え、」


「いいえ、気にせず。そして、『助けたのか』、この質問に対しては否、です」


 穏やかな様子のままで、男性は僕の質問に答える。


「僕は助けていません。ただ見守っていただけです。仕事なので」


そして、僕の方を向き、キャスター付きの椅子を引いて少し距離を近づけた。


「失礼しますね。体調の確認をしますので」


言いつつ、聴診器のようなものを僕に向ける。


「貴方を助けた人は、軍医中将殿です」


「軍医中将……?」


なんで、そんな人が僕を助けてくれたのだろうか。


「よく知られている呼び名は『魔女ウェネーフィカ』」


「……うぇねーふぃか」


「貴方が一番重傷だったので、彼女が治療をしてくれたんですよ」


流石ですよね、と白衣の男性は穏やかに微笑んだ。


「倒れていた貴方を拾ったのも、彼女です。貴方が運び込まれた時は、全身に火傷や裂傷れっしょうだらけで」


僕を保護してくれたのは魔女だった。

 その人は忙しいらしく、怪我をある程度治したら別の患者のところに行ってしまったらしい。そのあと、家族や伴侶の無事を確認しようと家に帰ったのだとか。


「退院はもう少し先です。動作回復も必要ですから」


つまり、リハビリを終えたら退院ということらしい。


「貴方は内臓の損傷も激しく、長く寝ていたので、しばらくは柔らかいものしか食べられないでしょうが」


 魔女に会えたらお礼が言いたいと思っていたけど、会える事なく退院の日を迎える。お世話になった白衣の男性にも会えなかった。


「それが……お二人共に、王の命令で巨大樹木の調査の補助に向かわれたそうで」


と、その辺の職員らしき人に聞いたら教えてもらった。

 巨大樹木は周辺の土地をひっくり返した直後から芽吹き、空を覆いつくさんばかりに枝を伸ばして青々と葉を茂らせている。


 病室の窓からも見えた。その度に、幼馴染のモルスの事を思い出して泣きそうになる。

 巨大樹木はとても大きくて、アウルムこの国にいればどこからでも見えるだろう。 


 家や帰る場所がなくなった僕は、魔女からアナスタシアという人に連絡が入っており、そこの孤児院で面倒を見てもらえる事になっていた。

 そこはアウルムの医療福祉施設を多く経営しているクニクルス家の孤児院で、筆頭の分家アニムスの人が病院と兼ねて経営しているらしい。


 言われても良く分からない。

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