設定ディスクロージャー。

 アウルムという国のウルスス公爵領、その中にあるルース村が、僕の生まれた土地の名前だ。田舎だけど国境にあるわけではない、なんとも微妙な位置。


 家の周りには山や森があって、この村に住んでいる人たちは畜産業や農業、果樹栽培で生計を立てている。

 まさにのどかな田舎、って感じの風景だ。


 僕の家でも動物を少し育てているけれど、家業は村の長みたいで、基本的に村の見回りや王国への納税、時折現れる商人達との価格の取引を行っている。


 なんというか、よくある転生ものだよなぁ。


 そう思いつつ、前世の記憶を頼りにのんびりスローライフでも……と、少し思ったけれど、前世の記憶なんて星の事とちょっとした悪魔や天使みたいな簡単なオカルティズムの知識しかない。一体何に役立つというのか。


 小さく溜息をついて、ぱたん、と持っていたハードカバーの本を閉じる。

 読んでいた本は、魔術の操作に関する本だ。


 僕の家が村の長をしているお陰で、こんな田舎でも本に目を通すことができた。おまけに文字の読み書きや算術などの勉強もできているので、両親の家業に心の底から感謝している。


 そろそろ、本を棚の元の位置に戻さなきゃ。


 閉じた本を持って、本棚に視線を向ける。この本があった場所は、子供の僕にはかなり高い位置にあった。

 僕は、死因のせいか、高いところが苦手だ。死んだ時あの時に感じたあの恐怖を嫌でも思い出してしまい、ちょっとした高さでも足がすくんでしまう。

 脚立や台に乗ることも少し怖い。それに本のあった位置は、子供の僕が台に乗ったって届かない。


 だから、僕は『魔術式』を唱える。


 ――『我は宣言する。”帰還”の術式を』


直後、持っていた本に萌黄色もえぎいろに輝く文様もんようが現れて僕の手から離れて浮かび上がる。

 この”帰還”の魔術式は、本に元から魔術式。

 話によると『フェレス家の悪魔』と呼ばれる人物が、その魔術式を生み出して簡易化、汎用化させたらしい。

 要するに、本当はいくつかの作用を起こす魔術式を組み合わせているけれど、魔術式の起動用の前置きと”帰還”の言葉だけで、魔力さえ持っていれば簡単に魔術式が使える。


 「『悪魔』のお陰で生活魔術、簡易魔術が安定した」なんていう、なんだか不思議な気持ちになる状況だ。

 似た言葉では、「『魔女』のお陰で生活の水準が大幅に上がった」だろうか。『魔女ウェネーフィカ』が様々な薬や魔道具を生み出し、生活が更に快適になったのだとか。


 そう。この世界には『魔力』がある。


 小さいときに『魔法』だって言ったら、両親から魔法ではなく「魔術だ」と修正を受けた。


 この世界での魔法は『魔獣や妖精が使う危ない力』で、魔術は『魔法を誰でも使えるようにした術』と、明確に分けられている。


 そして、魔術が使いたいなら、魔術師か宮廷魔術師、魔術兵にならないといけなくて、そのためには王都にある『魔術アカデミー』という場所へ向かわなければならないらしい。

 他にも魔術の学校はあるらしいけれど、『魔術アカデミー』が、一番高度な勉強ができるらしく、ついでにいうと学費が安いそうだ。

 あとは『良い身分証明ステータスになる』とも。


 本の位置を元に戻して、僕は部屋を出る。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る