第11話 学び舎にて

 ハンナさんの所に弟子入り二日目。

 どんな事をさせられるのだろう。

 指定された場所に行くとそこは子供達の教室だった。

 大して広くない部屋に5人の子供達が机を並べている。

 前の方には黒板があってチョークを拭く為の布が用意されていた。


「おっちゃん、子供の教室に通っているの」

「お兄さんと呼べ。まだ若いんだぞ」

「嘘だー。俺の父ちゃんとそんなに違わなく見えるぜ」

「苦労がにじみ出ているんだよ。お前らも俺ぐらいになったら分かる」


 おっ、ハンナさんが入って来た。


「よし、全員そろっているな。始めるぞ」


 黒板に炎の絵が描かれる。


「火が燃える為に必要な物は?」

「燃える物」

「他には?」


 子供達は答えない。

 じゃ俺が。


「精霊かな」

「正解だ」


 赤い小人さんが俺の傍に来て口をパクパクしてから『息ができないと』と言った。


「それと空気かな」

「おや、それは斬新な学説だね。証明はできるかい」


 赤い小人さんが赤い布を出してコップをかぶせた。

 驚いた事に赤い布は消えた。


「燃えている物にコップをかぶせてみたら良い」

「なるほど。ではやってみるとしよう」


 ハンナさんはロウソクを持ってくると、火を点けてからコップをかぶせた。

 ロウソクの脇の赤い小人さんが消える。


 ハンナさんもそれを感じ取ったのだろう。

 コップを取りロウソクが消えているのを確かめた。


「消えてるね」


 俺に色々と教えてくれた赤い小人さんに、俺は棒付きキャンディをあげた。

 赤い小人さんは胸を張り、自慢げな表情でキャンディを受け取った。


「ふむ、ドワールは精霊の理に精通しているようだ。坊主共も覚えておきな。凄腕の精霊術師は精霊の理に精通してる」


 キャンディを受け取ったのではない別の小人さんが来て、盛んにこっちを見てとアピールし始めた。

 なんだろう。

 赤い小人さんが赤い布を出すと今度は緑の小人さんが来て布を激しく動かした。

 これが何だっていうのか。

 ああ、そうか。


「炎は風を受けると激しく燃え上がります」

「そんなの当たり前だよ。おいらだって知っている」

「だが、さっきの空気が必要だという説を裏付ける証拠になる。風が空気を送り込んでいるからだね」


 俺もそんな事は考えた事がなかったな。

 ハンナさんは賢いな。


 拍手が起こったのでそちらを見ると、ジュリアが頬を染めて立っていた。


「ドワールって賢いのね。尊敬しちゃう」

「そうだね。座学は必要ないと思う。かと言って実践も足りているし、まったく教えがいのない弟子だよ」

「じゃ、ドワールは免許皆伝ですか?」

「そうさね。しばらく討伐でもさせてみてから判断するとしましょう」

「やった」


 ジュリアからピンクの小人さんが現れて、心臓に向かって恋の矢を打ち込む。

 俺の事を自分の事のように喜んでいる、嬉しそうなジュリアは、可愛い。

 おい、俺の方に矢を向けるんじゃない。


 俺は棒付きキャンディを渡した。

 小人さんは矢の事を忘れたらしい。

 まあ、撃たれてやっても良いんだが。

 まだ、所帯を持つ気にはなれない。

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