第9話 火熾し器にて

 冒険者ギルドの酒場で打ち上げだ。

 みんな、よく飲むな。

 俺は小人さんにハンマーで殴られるほど飲みたくはないな。


「誰か火種をもってないか。新人がヘマしちまって火を落としちまった」


 厨房から男が出てきてそう言った。

 火種なら持っている。


「おう、持っているぞ」


 俺は手を挙げて応えた。


「こっちだ」


 厨房に案内されて携帯用の火壺を開ける。

 ありゃ、赤い小人さんが現れない。

 みると火種が完全に消えている。

 火打石はあるが小人さんが頭を打ち付けるのは見たくない。

 仕方ない魔法もどきを使うか。


 俺はピンクの小人さんに頼んで棒付きキャンディを出してもらった。

 集まれとと言った訳ではないのに沢山の小人さんが集まって来る。

 赤いのが一人居ればいいんだがな。


「そこの赤い小人さん、後でキャンディをあげるから、布を出してくれないか」


 赤い小人さんはどこからか、人がすっぽり包まれるほどの大きさの旗を取り出して振り始めた。

 小人さんがよろめく。

 おっと危ない。


 周りにいた小人さんが手伝って支えた。

 小人さん達が『ゴウゴウ、ボーボー』という大合唱を歌う。


「こんな火力は要らないんだが。まあ、大は小を兼ねるとも言うしな。おい、新人ぼやっとしてないで火を点けろ」

「はい、親方」


 新人の料理人が恐る恐る旗に薪を差し出す。

 赤い小人さんが現れ薪の傍で赤い布を振る。

 火が点いたな。


「ご苦労様」


 俺がそう言うと小人さん達は旗を振るのを止めた。

 期待のこもった目で俺を見る小人さん。

 分かったよ、全員分に棒付きキャンディね。

 俺はキャンディを配った。


 旗振りに参加しなかったのだろう、銀色の小人さんが悔しそうな目で俺を見てた。

 ふと思った金属の歯車で火打石を削ったらどうなるんだろうかと。

 赤い小人さんが銀色の小人さんに引っかかれるのかな。

 頭を打ち付けるのとどっちが良いのだろう。


「銀色の小人さん、歯車になって火打石を削ってくれないか」


 火かき棒が変形して歯車が出来上がった。

 それに火打石が埋め込まれている。

 俺は親指で歯車を動かした。


 銀色の小人さんが指を鳴らす。

 音に驚いた赤い小人さんが飛びあがり頭から火花を出した。

 頭は打ち付けないのだな。

 こっちの方が何倍も良い。


「あんた、凄腕の魔法使いだな。こんな便利な道具を作るなんて」

「偶然、思いついただけだ」

「この道具の特許はとらないのか?」

「めんどくさそうだな」

「それなら俺が代わりにやってやるよ」

「なら頼む」


 銀色の小人さんが指を三本出した。

 はいはい、棒付きキャンディ3本ね。


「頭ごっちんがなくなると良いな」


 赤い小人さんが『うんうん』と言って頷いた。

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