第5話 雨の街にて

 今日は雨だ。

 水色の小人さんが降って来て、水蒸気と書かれた綿から『うんしょうんしょ』と言って水を絞り出す。

 街の街頭には灰色の小人さんが『きゃはは』と笑いながら走り回っていた。

 天敵の白い小人さんが居ないからだな。


 灰色の小人さんは走り回って、転んで泥だらけになり、笑っている。

 汚れるの大好きみたいだ。

 宿の中にもいつの間にか灰色の小人さんが居る。


「雨は嫌だね。かび臭くなる」


 シーツを替えに来た宿の従業員がそう愚痴を漏らした。

 眼下の軒先を見ると、鉢植えがあり、茶色の小人さんがぐるぐると腕を回している。

 雨の中で元気だな。


「でも雨も降らないと。農家の出としちゃ恵みの雨な時もあるんですよ」

「そんなもんかね。わたしゃ洗濯物が乾かないってだけでイライラしちまう」

「洗濯物が早く乾くおまじないしましょうか?」

「やっとくれよ」


 一階の食堂に行くと暖炉があり、ロープが部屋に張り巡らされ洗濯物が掛かっていた。

 暖炉の赤い小人さんから熱と書いた板をもらう。

 それを洗濯物に貼り付けて回った。

 水色の小人さんが現れ、水蒸気と書かれた綿を回収していく。

 俺についてきた灰色の小人さんにも熱の板を貼ってやった。


 灰色の小人さんが消えて行く。

 何か不味い事しちまったのか。

 見えなくなっただけだよな。


 もしかして水が大好きで火が嫌いなんじゃないか。

 水色の小人さんから水蒸気と書かれた綿を分けてもらい、灰色の小人さんの居た所で絞る。

 灰色の小人さんは再び現れた。

 やっぱり死んだ訳じゃないのか。


 表で元気に遊んでおいで。

 俺は灰色の小人を表に出した。

 部屋からかび臭さがなくなる。


「あら、まあ。洗濯物がすっかり乾いて。おまけにかび臭さも消えたわね。これはまじないの料金さ」


 銅貨を10枚貰った。

 雨の日は洗濯物のおまじない屋でもやろうか。

 いいや、濡れ鼠になって働くのは嫌だ。

 やっぱり部屋でじっとしておこう。


 しばらく、街を眺めていたら、空が明るくなり日差しが差し込んだ。

 白い小人さんがさっそく降り始めて、灰色の小人さんと喧嘩する。


 水色の小人さんが濡れた地面から、水蒸気の綿を取り出して、空に帰っていく。

 雨も良いけどやっぱり晴れだな。

 軒先の茶色の小人さんは踊り狂っていた。

 雨も喜んでいたけど、晴れはもっと嬉しいのか。

 俺と一緒だな。


 軒先に出て茶色の小人さんの頭を撫でる。

 茶色の小人さんは『ぐんぐん』と言ってから、『のびのぴ』と言っていた。


 さあ、冒険者ギルドに行って稼ごう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る