第9話 勝利の宴
──クリード視点──
「「「「かんぱーい!」」」」
今日のダンジョン探索を終えた俺たちは、酒場で色とりどりの料理が並んだテーブルを囲んで、ジョッキを打ち合わせる。
そして全員で、ジョッキのビールをごくごくと飲み干した。
「ぷはぁーっ! いやぁーっ、ダンジョン探索が大成功した後のビールは最高だね!」
「そうね。クリードがすごすぎて、ずいぶん楽をさせてもらった感じだけど」
「分かります。こうも簡単に大成功できてしまうと、驕ってしまいそうで怖いですね。クリードさんのおかげだということを、しっかりと心に刻んでおきませんと」
【武闘家】ユキ、【魔導士】セシリー、【神官】アデルがそう言って、冒険の成功を喜び合う。
俺もまた、その美少女冒険者たちの輪に混ぜてもらい、楽しく飲んでいた。
なんかめちゃくちゃ褒められるし、こんなにいい想いをしていて罰でも当たらないかと思うぐらいだ。
そんなわけで、ユキたちとパーティを組んでから最初のダンジョン探索は、これ以上ないほどの大成功に終わった。
出てくるモンスターには、ほとんど完封勝利。
こちらの損害は皆無に等しく、赤字の原因となる消耗品の使用も一切なしだ。
そればかりか、ダンジョンボスのフロストジャイアントを倒した段階で、セシリーやアデラの魔力が半分も残っていたほどの余裕ぶりだった。
収穫もBランクダンジョンにしては上出来だ。
四人で分配しても、一月はダンジョンに潜らず豪遊できるほどの成果である。
ユキが上機嫌で言う。
「何がすごいって、こんなに楽にダンジョンクリアできたのに、稼ぎを四人で分けても三人のときより多いことだよ。ヤバくない?」
「クリードが隠し扉を見つけたのが大きかったわね。奥の隠し部屋にあった財宝の量、ボス部屋の財宝の次に多かったんじゃないかしら」
と、これはセシリー。
「宝箱に爆発の罠などが仕掛けられていても、中身が破壊されずに手に入ることも大きいですね。……これはやはり、クリードさんの報酬配分を多めにするべきかもしれません」
アデラもそう言って、俺に視線を向けてくる。
一方の俺は、苦笑しつつ答える。
「いや、いいって。俺も麗しき美女たちに囲まれて、楽しくやらせてもらってるしな。報酬は十分すぎるぐらいもらってるよ」
「うわっ。クリード先輩ったら、やらしいんだ」
俺のちょっとした軽口にも、ユキはにひひっと笑ってからかってくる。
思っていたことが、つい口に出てしまった。
我ながらどうかとも思う発言だったが、ひとまず怒られなかったのでよしとしておこう。
「いや、すまん。でも実際のところ、前のパーティにいたときと比べたら、美女とか抜きにしても天国だからな」
「……そんなに扱いがひどかったんですか?」
アデラが聞いてくるので、俺は以前のことを思い出しながら答える。
「扱いがひどいっていうか、俺だけ除け者みたいな感じだったな。まああいつらと俺とじゃ、そもそも性格も合わないだろうし、仲良しこよしをしても仕方なかったとは思うが」
「じゃあ私たちとは、性格が合うのかしら?」
セシリーが微笑みつつ、そう聞いてきた。
彼女の少し妖艶に見える仕草は、意識的にやっているのかどうなのか。
「ああ。まだ知り合ったばかりだけど、三人といると楽しいよ」
「ボクもクリード先輩と一緒にいると楽しいよ。仲間、仲間♪」
隣に座っていたユキがそう言って、その両手で俺の手を握ってきた。
にへらっと笑った少女の頬は、真っ赤に染まっている。
……ったく、酔ってやがるな。
俺も酔っているから、お互い様ではあるが。
「あら、攻めるわねー、ユキ」
「酔ったふりなのか、実際に酔っているのか。私も真似でもしてみましょうか」
「だっ、だめっ……! アデラが真似したら、ボクなんか毛虫じゃん! こんな大きな凶器を二つもぶらさげて、ずるいよ!」
「ひゃっ……!? ちょっ、ちょっとユキさん……!? んんんっ……!」
俺の手を離したユキが、今度はアデラに襲い掛かった。
見てはいけない気がする光景が、俺の眼前に広がっていた。
何やってんだ……何やってんだ本当……。
セシリーが、ユキにジト目を向ける。
「ちょっとユキ、クリードの前だってこと忘れてない? 三人でいるときと同じノリでやったらまずいことぐらい考えなさいよ」
「あっ……てへへっ、そういえばそうだった。楽しい気持ちだったから、つい抜けちゃったよ」
ユキは恥ずかしそうに、自分の席に戻る。
だがその頃には、ユキにさんざん揉みくちゃにされたアデラは、頬を真っ赤に染めてはぁはぁと荒く息をついていた。
目に毒だ……。
さて、それはいいとして──
「ところで三人に、相談があるんだが」
「ん、なになに? 相談?」
ユキが乗っかってくる。
セシリーとアデラも、俺に注目した。
「いやな。今日のダンジョン探索の結果を見て思ったんだが。このパーティで一度、Aランクダンジョンに挑戦してみないか?」
「「「Aランクダンジョンに!?」」」
「ああ。三人の実力ならたぶん行けると思うんだが、どうだ?」
三人はきょとんとした顔を見せた。
不意を突かれたという様子だ。
「Aランクダンジョン……最近Bランクに挑戦し始めたばかりだったから、考えてもみなかった……」
「でも、そうね……クリードのおかげで、今日のダンジョン探索は楽勝と言える結果だった……確かにAランクも、行けるかもしれないわね」
「私は賛成です。戦神ドラムトは、新たな挑戦もまた戦いと捉え、尊きものとします」
「うん、ボクも賛成! クリード先輩とボクたちの力なら、きっとやれるよ」
「ええ。実際にやってみて、無理そうだったら撤退も視野に入れて。やってみましょう」
「よし、決まりだな」
そうして俺たちは、Aランクダンジョンに挑戦することになった。
ジェラルドたちでやれたのだから、彼女たちでもきっと及ぶはず。
俺はそう確信していた。
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