「罠なんて踏みつぶせばいい」と追放されたAランクの【盗賊】だけど、今はBランクの美少女パーティに誘われて楽しくやっています
いかぽん
第1話 追放
「クリード。お前をパーティから追放する」
俺に向かって、パーティリーダーの【剣士】ジェラルドがそう言った。
その後ろでは【重戦士】ダニエルが、冷ややかな目で俺を見ている。
【賢者】ルーシーは、ジェラルドに寄り添うように付き従っていた。
冒険者ギルド併設の酒場は、昼間には人が少なく、閑散としている。
「パーティから追放? どうしてだ。理由を聞かせてくれ」
俺はジェラルドに問いただす。
【剣士】の青年は鼻で笑い、こう切り返してきた。
「決まってるだろ。お前が役立たずの無能だからだ」
「役立たず……? 俺がか?」
「お前以外に誰がいるよ。お前、今日のダンジョン攻略でのモンスター撃墜数はいくつだ?」
「……ゼロだが」
「だよな? ちなみに俺は五体。ダニエルが四体で、ルーシーが五体だ」
「待て、それは」
俺ことクリードは【盗賊】として、このパーティではずっとサポート役に徹してきた。
パーティメンバーとの相性を考え、俺が攻撃に回るよりはサポートに徹したほうが望ましいと考え、そうしてきたのだ。
パーティのために最善になるように、俺なりに工夫も努力もしてきたつもりだ。
ダンジョンに潜らない休みの日には、技量を磨くべく盗賊技術の修練に努めた。
ダンジョン攻略で得た報酬も、生活費を除いた大半は技術指導を受けるために使った。
そればかりじゃない。
ダンジョンでのマッピングをはじめとした細々とした進行管理や雑処理なども、あらかた俺が務めてきた。
実際にもそれで、パーティはうまく回っていると思っていた。
成功を続けたうちのパーティは、今やAランクパーティとして迷宮都市の冒険者ギルドでも屈指の注目株にまで登り詰めている。
そのすべてが俺の力だとはもちろん言わないが、俺のサポートがなかったら絶対にここまで来られなかったはずだという自負はある。
だが──
「ルーシー」
「はい、ジェラルド様」
【賢者】ルーシーは、懐から一巻の羊皮紙を取り出し、ジェラルドに渡す。
ジェラルドは羊皮紙を広げ、俺に見せつけた。
そこには、ここ一ヶ月のダンジョン攻略でパーティメンバーそれぞれが討伐したモンスターの数が、一覧となって記されていた。
ジェラルド、ダニエル、ルーシーの三人の欄には、一回のダンジョン攻略ごとに五体前後の数字が並んでいるのに対し、俺の欄だけはゼロが並んでいる。
たまに討伐数がある日でも、一体か二体だ。
「クリード。いくら頭の悪いお前でも、これだけはっきり数字で見せれば分かるだろ。お前は俺たちのパーティの寄生虫なんだよ。とっとと失せろ」
つまり──どうやらジェラルドたちは、俺の仕事を認めてくれていなかったのだ。
もっと分かりやすく、俺が普段何をしているかを、はっきりと自己主張するべきだったのだろうか。
ダンジョン探索は、モンスター討伐だけがすべてじゃないと。
いや、そんなものは一緒にダンジョン探索をしているのだから、三人ともずっと見てきたはずだ。
ジェラルドと【重戦士】ダニエルの二人は性格が大雑把で、ダンジョン探索中に細かい注意をする俺のことをずっと煙たがっていた。
ときには声を荒らげて「俺に指示をするな!」と言われることもあったが、何しろ命に関わることだし、俺としても小うるさく言うしかなかった。
【賢者】ルーシーはジェラルドを慕っているようで、基本的にジェラルドのイエスマンだ。
内心では何を考えているか分からないが、いずれにせよ彼女は常にジェラルド側に立つ。
そんな三人が俺を除け者のように扱っているのは、ずっと承知してはいた。
だが仕事上の人間関係なのだから、お互いに多少の我慢は必要だろうと、俺も多少の不満は飲み込んできたのだが……。
「分かった。そこまで言われてこのパーティに居続けられるほど、俺も図太くはない。だがジェラルド、俺がいなくなって大丈夫なのか?」
「はあ? 大丈夫って、何がだよ」
「例えば、俺がいなくなったらダンジョンに仕掛けられた罠はどうする? 俺以外の誰も、発見も解除もできないだろ」
俺がそう問うと、【重戦士】ダニエルが笑った。
「ハハハハハッ! なんだ、そんなことを心配していたのか。ビビりのクリードらしいな。──いいか、罠なんて踏みつぶして進めばいいんだよ」
その言葉に、ジェラルドも追随する。
「そういうことだ。回復魔法さえあれば【盗賊】なんて必要ない──これがダンジョン探索の真理だ。ま、ほかのパーティのバカどもには、そういう発想の転換はできないみたいだけどな」
「……そうか、分かった。今まで世話になったな」
この調子じゃ、何を言っても無駄だろう。
俺は大きくため息をついて、ジェラルドたちの前から立ち去った。
なお俺が去った後で、新人らしき若い女性冒険者が一人、ジェラルドたちに接触をしていたのが視界の端に見えた。
どうやら【射手】のようで、ダニエルがその新人冒険者に獲物を狙うような目つきを向けていた。
【射手】の少女もまた満更でもないのか、ジェラルドやダニエルと嬉しそうに話していた。
……なるほど、そういうことか。
しかしまあ、なんであんな奴らがモテるかね。
確かに、金も地位も名誉もあるかもしれないが──
ま、俺にはもう関係のないことだ。
俺は一人、冒険者ギルドをあとにする。
その後、酒場に繰り出して酒を浴びるように飲んだのは、いろいろとむしゃくしゃしたからであることを認めないわけにはいかなかった。
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