第5話 ある【射手】の少女が見た風景(1)
──ある【射手】の少女が見た風景──
十三歳の「加護識別の儀」で【射手】の加護が与えられたことを知った私は、生まれ育った田舎を出て冒険者養成学校に入り、十五歳でこの迷宮都市へとやってきた。
迷宮都市──この国のすべての冒険者が成功を目指してやってくる、冒険者たちの聖地。
この国で冒険者の加護を得た人は、国営の冒険者養成学校で二年間基礎を学んだあと、たいていはこの迷宮都市を訪問する。
私も「英雄」と呼ばれる存在になれる日を夢見て、新品の弓矢と革鎧だけを頼りに、この迷宮都市へとやってきた。
でも最初から英雄だなんて高すぎる目標を見ていては、足元をすくわれるだろう。
まずは地道に、新人のFランク冒険者として堅実な第一歩を踏み出すことだ。
さて、いい仲間が見付かればいいけど──
なんて思っていた私に、望外な誘いが飛び込んできた。
迷宮都市の冒険者ギルドでパーティメンバーを探していると、なぜだかAランク冒険者のパーティに誘われてしまったのだ。
Aランク冒険者といえば、熟練の冒険者たちの中でも幾多の苦難を乗り越えた人たちだけがようやくたどり着ける、一握りのエリートたちだ。
最初は何かの間違いだと思った。
私なんかがAランクパーティに誘われるわけがないと。
でも話を聞いてみると、新人を一から育てて戦力にするつもりらしい。
パーティメンバーが一人抜ける予定なんだとか。
そのAランクパーティの名前は『ペイルウィング』。
私は唾をのみ、意を決した。
こんなチャンスは二度と来ないだろう。
運を最初から使い果たしてしまったようで怖かったけど、私は思い切ってその誘いに乗った。
パーティメンバーは【剣士】のジェラルドさんと、【重戦士】のダニエルさん、それに【賢者】のルーシーさんの三人だ。
抜けたパーティメンバーは【盗賊】のクリードという人らしいけど、ジェラルドさんたちの話を聞いている限り、ろくな人ではなかったみたいだ。
ジェラルドさんたちは、その人の能力が自分たちとは見合わない低さであるにも関わらず、ずっと我慢して育ててきたらしい。
でもそのクリードという人は、いつまでたっても成長しないどころか態度も大きくて、自分が実力者だと勘違いしていたのだという。
それで温厚なジェラルドさんたちもついに堪忍袋の緒が切れて、思い切ってその人を追放したのだとか。
その話を聞いた私は、冒険者の世界でもやっぱり人間性って大事なんだなと思った。
そして私は、ジェラルドさんたちに愛想を尽かされないよう、必死で頑張ろうと思った。
ところでパーティリーダーのジェラルドさんは、いわゆる「イケメン」というやつだ。
パッと見でかっこいいし、笑うと歯がキラッと光りそうな感じ。
あの甘いマスクで微笑まれると、田舎娘の私なんかはそれだけでドキッとしてしまう。
でもパーティの人間模様を見ていると、彼はどうもルーシーさんと恋仲のようだった。
ジェラルドさんはみんなを引っ張るタイプで、ルーシーさんはジェラルドさんを慕ってついていくタイプ。
お似合いの二人だ。
私の入る隙はないし、ジェラルドさんからイケメンスマイルを向けられても勘違いしないようにしないといけない。
一方で【重戦士】のダニエルさんも、私にいろいろと親切にしてくれた。
私が分からないことは、ちょっと乱暴ながらも嫌な顔一つせずに教えてくれるし、親身になって相談にも乗ってくれる。
ダニエルさんは豪放で大雑把だけど、気のいい人だ。
少しスキンシップが多い気もするけど、それは私が気にしすぎなんだと思った。
私の腰を触るダニエルさんの手つきがいやらしいだなんて、思っちゃいけない。
そもそも私をパーティに誘うようジェラルドさんに提案してくれたのも、ダニエルさんなのだという。
良いパーティに誘ってもらえたと思った。
私は皆さんの期待を裏切らないよう、精一杯に頑張ろうと心に決めた。
……いや、どうだろう。
本当にそうだったのか。
ひょっとしたら、私が「そう思おうとしていただけ」なのかもしれない。
私の中で、彼らに対する疑念は、少しずつ膨らんでいった。
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