第4話 援護射撃
その後もパーティは、順調にダンジョン探索を進めた。
ユキ、アデラ、セシリーの三人は、何かとしきりに俺を褒めてくれる。
一方で、彼女らの冒険者としての腕もまた、期待通りかそれ以上に優秀なものだった。
俺たちがダンジョンに入って最初に出遭ったモンスターは、デスドッグという名の双頭の猛犬が五体だ。
デスドッグは一体一体、決して侮れるモンスターではない。
大型の狼に匹敵するかそれ以上の大きな体を持ち、二つの頭部が鋭い牙で同時にかみついてくる。
その上、牙はかみついた相手の体調を狂わせる毒を帯びている。
まともに戦うと相当に厄介な相手なのだが、三人の少女たちの手並みは鮮やかなものだった。
「燃え盛る火球よ、爆炎となりてわが敵を焼き尽くせ──ファイアボール!」
デスドッグの群れと交戦に入った直後、【魔導士】セシリーが爆炎魔法を放ち、五体の双頭魔獣すべてを巻き込んだ。
Bランク相当かそれ以上の実力を持った、高位の【魔導士】でなければ使えない強力な破壊魔法。
爆炎の直撃を受けたデスドッグたちは、それ一撃で力尽きることこそなかったにせよ、いずれもかなり大きなダメージを受けてよろめいた。
そこに──
「よぉし、いっくよー! ──やぁあああああっ!」
「戦神ドラムトよ、汝の敬虔なる信徒に力を! ──はぁああああっ!」
爆炎がやむのと同時かやや早いぐらいのタイミングで、【武闘家】ユキと【神官】アデラが突撃。
二人は弱ったデスドッグたちに、次々と攻撃を仕掛けていく。
「はあっ! ──てりゃああああっ!」
ユキは【武闘家】らしい俊敏な動きでデスドッグたちを翻弄し、拳や蹴りによる連続攻撃で次々とデスドッグを屠っていく。
その戦いぶりは、Aランクパーティ『ペイルウィング』の【剣士】ジェラルドや【重戦士】ダニエルと比べても、大きく遜色のないものであるように見えた。
倒されたデスドッグは消滅し、あとには「魔石」と呼ばれる宝石が残される。
ユキとアデラの二人は、一つ、二つ、三つ──と、デスドッグたちを次々と魔石に変えていった。
ちなみに俺はというと、後方から弓矢を使って二人の戦いを援護していた。
二人が別のデスドッグと戦っているとき、彼女らの死角から襲い掛かろうとする個体に対して、出鼻をくじくようなタイミングで矢を放つ。
そうすることで、デスドッグたちはユキたちへの攻撃の機会を、何度か逸していた。
やがてすべてのデスドッグが魔石へと変わり、つつがなく戦闘が終了する。
結果として、撃墜数はユキが四体、アデラが一体。
俺とセシリーの撃墜数はゼロだ。
だがそんなことを、彼女たちはまったく意に介さない。
「いえーい、完全勝利―っ!」
ユキたち三人は互いにハイタッチをして、戦闘の勝利を喜び合う。
と思っていたら──
「ほら、クリード先輩も、手ぇ出して」
「お、おう」
俺のところにもハイタッチの要求が来た。
戸惑いながらもユキに言われたとおりに手を出すと、ユキはその両手を俺の手に合わせてくる。
「クリード先輩、いぇーい!」
「い、いぇーい」
俺は少し気恥ずかしく思いながら、セシリーやアデラともそれぞれ手を合わせた。
このノリは何というか、こそばゆい。
しかし前のパーティでは俺は何となく除け者にされていたから、嬉しくないと言えば嘘になる。
「いやしかし、見事なもんだな。『ペイルウィング』の連中の戦いぶりと比べても、ほとんど遜色ないと思うぞ」
俺は少女たちに、本心から賛辞の言葉を贈る。
ジェラルド、ダニエル、ルーシーの三人も、性格や協調性はともあれ単純な実力は低くなかったから、Bランクでこれならユキたちは大したものだ。
しかしユキとアデラは、少し釈然としない様子で首を傾げていた。
「でも……なんか妙だったんだよね、今の戦い」
「ええ、ユキさん。私も思いました。何というか、すごく戦いやすかったとでも言えばいいのか……」
「そうそう、そんな感じ! 邪魔が入ってほしくないときに邪魔が来ないの。すっごい戦いやすかった」
「それはきっと、クリードの仕業ね」
そう口をはさんで俺のほうをちらと見たのは、近接戦闘には参加せずに俺の隣で様子を見ていたセシリーだ。
「クリード先輩の仕業……?」
ユキの疑問の声に、セシリーはうなずく。
「ええ。横で見ていて分かったわ。クリードが弓矢で、おそろしく的確な援護射撃をしていたの。デスドッグがユキやアデラの隙をつくタイミングは何度かあったけど、その全部がクリードの射撃で出鼻をくじかれていたわ。あれは並大抵の援護技術じゃないはずよ」
まあおおむねその通りなんだが……こうしてあらためて解説されると、こそばゆいな。
しかもアデラとユキは、俺にさらなる尊敬のまなざしを向けてくる。
「なるほど、そういうことですか。個人の功を求めるのではなく、パーティの全体効率を考えての的確な援護。まさに見事というほかありません」
「へぇーっ。さすがクリード先輩、いぶし銀っていうか、何かカッコイイ! ていうか探索だけじゃなくて戦闘でもすごいってどんだけ?」
「ねぇクリード。どうしてあなた、パーティ追放なんてされたの? どこからどう見ても、超一流の腕前じゃない」
セシリーがそう聞いてくる。
だがそれには、ユキが答えた。
「だから、元いたパーティのリーダー──ジェラルドっていうんだっけ? そいつが『【盗賊】なんてダンジョン探索に必要ない!』なんてバカな事を言ったんでしょ」
「……本当に頭悪いわね、そいつ。ほかのパーティメンバーも、誰か止めなかったのかしら?」
「きっとクリードさんが整えていた環境を、当たり前のものだと思ってしまったのでしょう。自分のことを大きく見せたい人なら、そうなるのも分かります」
「嫌だよねー、そういう自分が全部みたいな人。──でもクリード先輩、ボクたちは絶対、そんな風にはならないからね! ずっと感謝するから、そのつもりでいてよね♪」
「お、おう、そうか。……ありがとう」
「えへへっ。こっちこそ、ボクたちのパーティに入ってくれてありがとうね、先輩♪」
褒められすぎて、何だか居たたまれない。
あとユキは距離感が近いから。
美少女が満面の笑顔で迫ってくるものだから、どうしてもドギマギしてしまう。
すると、そんな俺の様子を見てか、ユキがにやりと笑う。
「あっ。……ははーん。クリード先輩、さてはボクの笑顔に惚れたな?」
こいつ……!
くそっ、反撃してやる。
「ああ、そうだ。俺はユキの笑顔に惚れたよ。ユキはめちゃくちゃかわいいから仕方ない。不可抗力だ」
「ふぇっ!?」
すると反撃が来ると思ってなかったのか、ユキの顔が真っ赤に染まった。
【武闘家】の少女は、あわあわと慌てふためく。
「あっ……え、えっと……それは、ど、どういう意味で……」
「──と言ったら、ユキはどうする?」
「えっ……? ──あーっ! 先輩、ボクのことからかったな!?」
「最初にからかってきたのはユキのほうだろ」
「ぐぬぬぬぬっ……!」
ユキの表情が次々と変化して、妙にかわいらしい。
俺はくつくつと笑ってみせる。
一方、それを横で見ていたセシリーが、大きくため息をつく。
「ちょっとユキ。いつまでもクリードとイチャついてないで、ダンジョン探索を続けるわよ」
「い、イチャついてないし! ないし……ないし……ない、よね……?」
「ああ、ないな」
「ムッカーッ! 少しぐらい迷ったらどうなのさ! ボクってそんなに女の子として魅力ない!? やっぱりクリード先輩も、アデラみたいに胸がボーン、お尻がボーンって女の子が好きなの!? 男ってみんなそうなの!?」
「はいはい、ユキさん。落ち着いて。好意が駄々洩れですよ」
「なっ、なっ、なっ……!?」
顔を真っ赤にして、口をパクパクさせるユキ。
何をやってるんだか。
だがすごく楽しい気分だ。
前のパーティにいたときには、なかった感覚。
ジェラルドには、追放してくれたことに感謝してもいいぐらいだ。
あいつら今頃、どうしてるかな──
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