第11話 幕切れ

 ──クリード視点──



 結果から言おう。


 俺たちのパーティによるAランクダンジョンへの挑戦は、見事、大成功に終わった。


 さすがにBランクダンジョンのときほど楽ではなかったが、それでも誰一人欠けることなく、安定したダンジョン攻略を成し遂げることができた。


 はっきり言って、ジェラルドたちとパーティを組んでいたときよりも、円滑に攻略が進んだぐらいだ。


 ユキたちは、個々人の単純な実力ではジェラルドたちにはわずかに及ばないものの、協調と連携によって本来以上の戦果を発揮してくれる。


 俺の援護とも合わせて動いてくれるので、やりやすいことこの上ない。

 このダンジョン探索は、三人と息を合わせたダンスを踊っているような心地だった。


 獲得した財宝の総額も、Bランクダンジョンのときの二倍ほど。

 文句なしの結果だ。


 ほくほくの収穫とともに帰還した俺たちは、酒場に繰り出し、宴会に興じる。


「「「「──かんぱーい!」」」」


 飲めや歌えの大騒ぎ──とまではいかないが、ユキたち三人と飲む酒はうまく、楽しかった。


 ちなみにユキなどは、少し飲むと酔っぱらって、俺に妙に絡んでくる。


「クリードせんぱぁい、ボクってそんなに魅力ないですかぁ~?」など言ってすり寄ってくるのだ。


 俺にそれをどう解釈しろと。

 酔った勢いでからかっているだけなら、こっちが本気で勘違いしないうちにやめてほしいところだ。


 まあともあれ──


 今の俺はとても充実している。

 前にも思ったが、追放してくれたジェラルドには感謝したいぐらいだ。


「そういえば──」


「ん? どうしたの、クリード先輩?」


 ユキが俺にしなだれかかるように抱きつきながら聞いてくる。

 本気で襲うぞこいつ──とかは置いといて。


「最近ジェラルドたちの姿を、この街で見掛けないなと思って」


「ジェラルドって、クリード先輩の前のパーティのリーダーだったっけ。会いたいの?」


「いや、まったく。ただ、今頃どうしているのかと思ってな」


 迷宮都市には、ほかにも【盗賊】がいないパーティなんていくらもある。


 だがその場合は、あの程度の実力でAランクダンジョンの攻略は難しいだろう。


 それに何より、『ペイルウィング』では戦闘以外のことは軒並み俺が一人で担ってきたから、あいつらがまともにダンジョン探索できている光景がちょっと想像できない。


 ルーシーが一人で苦労している感じだろうか。

 だとしたら少し気の毒だ。

 ストレスを溜めていないといいが──


 などと思っていると、キィと音を立てて、酒場の扉が開いた。


 扉の向こうには、俺が見知った一人の【賢者】の姿があった。


 その【賢者】──ルーシーは、俺の姿を見つけると、俺に向かって歩み寄ってきた。


 ルーシーと言えばいつもジェラルドの後ろにくっついていたから、一人でいるのを見るのは少し不思議な感じだ。


「よぉ、ルーシー、久しぶり。一人とは珍しいな」


「はい、クリードさん、お久しぶりです。今日はクリードさんに、最後のお別れのご挨拶をしようかと」


「最後のお別れ……?」


 どういうことだろう。

 彼女もジェラルドたちに愛想を尽かして、パーティからの離脱でもしてきたのだろうか。


 一方でルーシーは、俺に寄りかかっているユキの姿をちらと見る。


 ……あ、これって何か勘違いされるパターンでは?


 だがそれを見たルーシーは淡い微笑みを浮かべ、こう続けた。


「私もクリードさんみたいな人を好きになっていたら、こんな風にはならなかったんでしょうか」


「い、いや、これは──って、こんな風?」


「……いえ。それではクリードさん、お元気で。もうお会いすることはないでしょうが」


「お、おい、ルーシー!」


 ルーシーは俺の呼び止めに応じることなく、優雅に一礼をして立ち去って行った。

 本当に、ただ挨拶に来ただけのようだった。


「いったい何だったんだ……」


「先輩。あの人も、前のパーティの仲間? ……ひょっとして、先輩の元カノさんだったりする?」


 ユキがよく分からない質問をしてきた。

 俺は苦笑しつつ答える。


「何でそうなる。──ルーシーはジェラルドのことを慕っていたんだ。彼女が何を考えているのか、俺にはついに分からず終いだったが」


「うぇえええっ……!? ジェラルドって、例の人だよね……? あ、悪趣味な人がいるもんだなぁ……」


 ユキにもまた、ルーシーの気持ちは分からないようだった。


 まあ、直接彼女の様子を見ていた俺でも分からなかったんだから、伝聞だけで分かるはずもないか。




 ──なお、その後のこと。


 俺ことクリードは、ユキ、セシリー、アデラの三人とともに冒険を続け、やがてはSランク冒険者の地位にまで登り詰めることとなる。


 一方で、ジェラルドやダニエル、そしてルーシーの姿を迷宮都市で見掛けることは、以後は一度もなかったのだった。

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「罠なんて踏みつぶせばいい」と追放されたAランクの【盗賊】だけど、今はBランクの美少女パーティに誘われて楽しくやっています いかぽん @ikapon

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