目覚めた少女が『真実』を知るまでの物語

寒冷化が進む地球で治安が悪化し、殺されたはずの主人公『東郷まりん』は、10年後の凍て付いた東京で目を覚ます。そこで目にしたのは炎を噴き出す自身の異能、魅力的な美女、そして東京を跋扈する巨大な怪物達……。何もかもが変化した終末世界で、まりんは父の姿を追い求めて生きていく――。

冒頭から主人公の死亡という強烈なシーンで始まり、目覚めた後の世界や状況においても謎が多く、オチが気になって最後まで一気に読み進めてしまいました。
作者さんも自らアピールポイントにしている確かな文章力によって、困惑したり読みにくさを感じることなく、ラストまでスラスラ読み切れた部分は素晴らしいの一言です。
謎の怪物『キャンサー』や異能者同士でのバトルシーンにおいても、その高い実力は遺憾無く発揮されています。迫力満点でありながらスピード感のある描写によって、終始ワクワクしながら楽しむことができました。

更に、過酷な状況の中でも逞しさや優しさを失わないまりんや、単なる『主人公に寄り添う優しいお姉さん』で終わらないミリルなどなど、魅力的なキャラクター達の個性も強く印象に残ります。
エピローグでは全ての謎が解明され、爽やかさや『温かさ』があり、総合的に高水準な技術でまとまっている良作だと思いました。

ただ、内容的には文句ナシなのですが、タイトルに『旅をする』とあったのに、あんまり旅要素を感じられないのだけは残念でした。
氷の東京から始まりの地・北海道を目指し、交通機関も死んでいるので寒さに凍えつつ歩き、まりんの炎で温まったり道中に出現するキャンサー達を倒しながら北上するのかな……。と予想や期待をしていたのですが、航空機で三時間で到着したので「旅とは……?」と正直思ってしまいました。もっとロードムービー的な内容かと思っていましたが、割りとバトルがメインでした。
しかしまりんが目覚めてからエンディングまでの一連の戦いが『旅』である、という意味ならば、タイトル的には間違っていないのでしょう。

それと、あらすじの最初に「プロお墨付きの文章です!」と表記するのは、個人的にはあまりオススメしません。
他の作品でもアピールしていて、確かに文章は非常に上手だと思います。プロの方々から評価されたのなら、それは間違いなく素晴らしいことです。今後も自信を持って執筆する原動力にして頂きたいです。
ですがそれは、読者へのアピールポイントには大してなりません。読者は上手い文章を読みに来ているのではなく、魅力的なキャラの活躍や心躍るストーリーを期待しているのですから。コレは私も編集者から言われた指摘です。
小説における文章力というのは、料理人にとっての包丁捌きや焼き加減のテクニックみたいなものです。ですがお客様にアピールすべきなのは調理スキルではなく、その技術によって作られた料理が美味しいか不味いか、が評価基準になるはずです。
ネガティブな読者だと「じゃあ文章以外はプロ級じゃないの?」と捉えてしまう危険性もあるので、文章力の高さはあまり前面には出さず、斬新な作品テーマや目新しい世界観、読者の目を引く設定や個性的なキャラ達、そして素晴らしいストーリーや構成力を押し出した方が良いのではないかと、個人的には思います。

そういった部分での実力も高い作者さんだと感じたので、文章力のみをアピールするのは勿体ないです。そう思えるほど、面白い作品でした。

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