どこかにある、父性

二人のジャック。それはともに、「人ならざる存在」なのです。この物語は二人のジャックと一人の少年の、ある夜ある晩のお料理の話です。
……って、お料理の話ってなんやねん!? と思われるかもしれませんが、実際そうなのです。バーベキューやるんですよ。ひと晩かけて。楽しそうでしょう。でもですね、そこにはたいせつな人間の物語が描かれているのです。それがタイトルにも書かせていただきました「父性」というものです。このレビューではこちらについてお話させていただこうと思います。

少年はお父さんを探しています。お父さんがいないのです。お父さんにもらった野球帽をかぶっています。そんな少年が二人のジャックと出会い、ふとした縁でバーベキューをやることになります。でもこの少年、「ふとした縁」をやすやすと結べるような子供ではないのですよ。ご想像のとおり、彼のこころの中には深い傷があります。ではなぜ少年は二人のジャックと結びつくことができたのか。これを考えたとき、ぼくはこの物語を二度楽しめたような気がしました。少年は変化を望んでいたのではないか。むしろ、現状を解決してくれるための変化を、それこそ藁をもつかむような気持ちで求めていたのではないかと考えました。

二人のジャックはとても聡明です。少年は自らのこころをハッキリと明かさないのですが、それをわかったかのように振る舞ってくれます。バーベキューをやる。その行為の中で、少年のこころがほぐされていきます。そして、二人のジャックとの関係もまた微妙に変化します。ハッキリとは書かない美しさ。そのようなものをぼくは感じました。淡いタッチで描かれた、どこか懐かしい絵。そういう連想をするに至ったのです。
このお話の舞台はアメリカでしょうか。それも書かれてはいませんが、なんとなくアメリカのように感じます。もちろん舞台を想像するのは読者それぞれの自由です。だけど舞台がアメリカだと想像した瞬間、深い黒の夜空、そして白々と拡がっていく煙のような夜明けをイメージしました。それらはともに、少年のこころと重なって見えました。
やはり、絵、だな。と思ったのです。二人のジャックという「人ならざるもの」と接しているからか、現実がぼやけ、淡い色の中に混ざり込むような感覚を覚えます。そして残ったものは、こころ一つのみ。それが、少年のもつ「父性への思い」だったのです。

二人のジャックは、少年の父ではありません。しかしこの作品には父性が点されているに感じられるのです。少年に干渉することなく、道を示すような。それはまさに本作のテイストそのものです。ここの合わせ方はじつにうまいです。相当な筆力であると感じます。作者のEdyさんは雰囲気、というか空気感をたいせつにする作家なのだと思いました。
この、ある種芸術的なシーン展開が本作の見どころです。でもあまり身構えず、奇妙なバーベキューを自然と楽しんでいただければと思います。

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