二つの世界を行き来するファンタジー

起きたら猫になっていた。
日常では絶対に出会えない光景です。
しかも猫になる前の記憶が無いという魅力的な始まり方が印象的でした。
謎でストーリーを引っ張っていく手際も鮮やかでどことなくミステリのイメージが湧きます。
しかし純粋な推理小説と云うよりはミステリ要素のあるファンタジーというのが正しいでしょうか。
ですがそれは悪いことではありません。
多くの小説は技術としてミステリを利用しています。
謎がない小説は数えるほどしかありません。
この小説もそのことをよく分かっているのだと思います。
読者がどこに興味を覚えるか、それを計算して緻密に構成されている。
またヒロインの性格もとても良い。
純粋に可愛いとは云えないかもしれませんが論理的に行動し、自分の正しいと思ったことのために動くというのは魅力的です。
彼女の性格に惹かれる人は多いのではないかと思います。
文体も読みやすく過度な装飾もないので映像が眼に浮かびます。
猫になったことなんて誰もありませんが猫の視点を忠実に再現していると感じました。
また人間としての自我みたいなものが主人公を縛っていて猫であることを受け入れられないようにも思えます。
当然、誰も猫として生きたいとは考えないでしょう。
そんな葛藤がとても人間的で主人公を共感できる人物として描き出しています。
世界観とキャラクターが一緒になって成長しているような不思議な気配を醸し出しています。
完全なファンタジーではなく、むしろ日常的な部分が詳細に描かれることによってこの小説は特別なものになっているのではないかなと。
しかし猫になるたびに全裸になってしまう主人公が可哀想で。
女子大生と一緒に部屋に住むという普通に考えればかなりぶっ飛んだ設定なのですが、そこまで恋愛観が出ないのが良いと思います。
謎を前面に出している効果がここに現れているのです。
真実を追うというテーマを扱うことで小説自体がロジカルだと云えるかもしれません。
これは他のファンタジーにも負けない要素だと思います。
ここからどんな展開が待ち受けるのか、そして主人公は記憶を取り戻せるのかなどさらに楽しめる要素が既に内包されています。
序盤でこれほど面白く出来るので、続きも面白くなると約束したも同然です。
伏線も細かく張り巡らされているようでさらに期待が高まります。
伏線とは回収しなくても考察できるというメリットがあるので。
ファンタジーとして日常から非日常までを網羅できるとても面白い小説です。
そんな本作を読んでみてはいかがでしょうか。

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