一点の竹細工のような小品

八島剛佐―才能には恵まれなかったが血の出るような努力の末、流派の奥義「斬壺」を再現し、八島払心流宗家の位を手に入れた武士。しかし、名も無い刀狩りの童に打ち負かされ、刀を奪われてしまいます。

竹を小刀で割っていくような、すい、すすいと進む文章が心地良く読めます。剛佐の硬骨な剣術への探求と、それゆえの童に対しての闘争心がつぶさに、しかし、熱くならず清廉な空気の中に描かれていきます。同じ文体が技の記述にも活かされて、力が足元から腕先にまで渡って行く様子、柄を握る手の動きに、剣の心得がなくとも刀筋がわかる気がします。

剛佐と童は再び剣を交えることになり、剛佐はそれに「斬壺」をもって立ち向かいます。そこへ至るまでの剛佐と弟の葛藤、そして立ち合いのスローモーションのような記述が緩急を成してとても美しいです。きりっとした竹細工のような小品だと思いました。

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