第7話(本能寺が変)

 奥の間に1人残った信長は床に腰を下ろし、饂飩うどんの容器を覆っている紙蓋かみぶたをゆっくりがす。


「おお! まこと、よい風味であるぞ。湯を注ぎ待つだけで、このように料理できようとは、アッパレな働きをしよるものよ」


 七味唐辛子を振りかけ割り箸を握ったとき、ふすまが勢いよく開かれた。


「なぬ、オヌシか!」

「明智十兵衛光秀、信長様のお命頂戴ちょうだいしに参った!」

「わははは、たわけが」

「いっ、いいえ、本気ですよ!」

「まあまあ、そう怖い顔をするな。オヌシもこれを食え」

「な、なんでございましょう」

「紅白の餅を載せた饂飩である」

「え、饂飩?」


 光秀は信長が手にしている容器に鼻先を向けた。


「あっはあ~、まこと、よい匂いであります!」

「であろう、であろう! 半分くらい食ってよいぞ」

「はい! 馳走ちそうになります!」


 天正10年6月2日の朝、本能寺は燃えている。紅く燃え盛って、すべてを焼き尽くすのだ。




【 ~ 完 ~ 】






 ~ ~ ~ ☆ ~ ~ ~ ☆ ~ ~ ~ ☆ ~ ~ ~


「おいコラっ光秀、半分より多くを食うでない!」

「どうか、もそっと」

「ええい、返せ返せ!」

「あっ、どうか、もそっとだけ、信長様」

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信長 ~最期の1食~ 紅灯空呼 @a137156085

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