第3話(時空間移動)

 周囲が一瞬だけ灰色に包まれたが、すぐに明るく変化した。

 さっきまであった焦げ臭い匂いはなく、なにか花のような芳香が漂っている。


「違う時代の他所よそへきたのか」

「よくお判りです。西暦せいれきで2021年の師走しわす晦日みそかにきました」

「西暦だと?」

「海の向こう、西のずっと遠い国が使うこよみです」

葡萄牙ポルトガルのことを云っておるのだな」

「はい、その辺りです。この時代では世界の多くで西暦が使われておりまする」

「であるか」


 信長はゲンナイ弐式から降りて周囲を観察した。

 持ち前の鋭敏な感性で時代の違いを感じ取れたものの、ここが日本の首都に建つ高級集合住宅の1室だと云うことまでは、流石さすがに知るよしもない。

 源内が食卓の席に信長をいざなう。


「さあさあ、こちらに座ってお待ちくだされ。すぐに饂飩うどんを作りまする」

「おお」


 台所に行った源内は湯沸かし器からでるお湯を薬缶やかんにいれて瓦斯ガス焜炉コンロにかけ、沸騰させることにした。

 戸棚に収納してある容器入りの即席麺を3個取り出し、両腕に抱えて食卓まで運ぶ。

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