信長 ~最期の1食~

紅灯空呼

第1話(人間50年)

 天正10年6月2日の朝、本能寺ほんのうじが燃える。あかく燃え始めていた。


「アー、人の世なんて、せいぜい50年ヤー。そんなの下天じゃ、1日だっヨー。1回生まれりゃ、死なねぇ者なぞ、ありゃしネー。アー、すたこりゃへっへ~♪」

「あれれ、なんだかとっても軽いノリで舞う織田信長だねえ」

「誰だ、オヌシは!」

「ああ初めまして、平賀ひらが源内げんないと申す者にございまする」

「ナニ用か!」

「信長さんに食してもらいたいお料理がありましてね。斬新な饂飩うどんですよ」

「いかなる料理かは知らぬが、ワシはじき死ぬ。腹を満たす必要なぞない!」


 本能寺は燃え続けている。

 もう少し経てば、ここ奥の間にも火の手が達するだろう。

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